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2021.01.18

回転すしが本当に回すべきもの

 新型コロナウイルスの影響で、日々の生活が様変わりをはじめ、多くの企業もウィズコロナ/アフターコロナ時代に対応する戦略作りに躍起になっている。外食産業においては、二度目の緊急事態宣言が発令され、大きなダメージを被るのが明らかなのは想像に難くない。一度目の緊急事態宣言の際に、デリバリーや非接触対応などスピーディに変化対応した企業とそうでない企業との差がさらに広がることは容易に推測できる。

 そのような外食産業全体がダメージを受ける中、先日私の最寄り駅にスシローが新規オープンした。このような情勢の中で店舗拡大しているスシローに興味を持ち、二度目の緊急事態宣言前に足を運んでみた。事前に少し調べてみると、回転すしチェーンの中でも売上規模トップのスシローは2020年9月期の売上高は2049億5700万円(前年度比2.9%増)と、過去最高を記録したようだ。一方で、2位のくら寿司は、2020年10月期の売上高は1358億3500万円(前年比0.2%減)とほぼ横ばいだったが、最終損益は2億6200万円の赤字となり、01年に上場してから初の最終赤字に転落している。なぜ同じ土俵の上でここまで明暗が分かれたのだろうか。

そのような疑問も携えながらスシローの新店に訪れた。週末ということもあったが、コロナ禍とは思えないほどの盛況ぶりでスマホでの呼び出し待ちが十数組いるような状態であった。待っている間は、店舗の入っている商業ビルで買い物をしながら過ごし、呼び出し近くなってからお店のソファで待つことにしたのだが、ソファで待っている数分の間にもデリバリーやテイクアウトの商品を取りに来るお客さんが数組来店していた。いざ店内で食事をしてみると、ネタのクオリティに対するコスパもよく、人気の理由が納得できる味わいで大変満足でき、帰りはセルフレジでお会計を済ませ店を後にした。

 帰ってからスシローの戦略について改めて調べてみると、原価率50%という品質重視とDX推進の2つの特徴を他社との差別化要素として掲げ、今後は海外進出での大きな成長を狙っているらしいことが記事に出ていた。特に、DXについてはコロナ禍でのデリバリー対応や、すしロボ・セルフレジによる極力人員を介さない非接触対応などは他社に先駆けてスピーディに対応したことで、決算に表れるような結果として功を奏しているというのはお店に行った私も実感できたことであった。

 

 では、これからもこの路線を推し進めることでスシローは大きく成長できるのであろうか。長期的な視点で見ると、DXなどは今後他社も大きく推し進めることになるであろうし、決定的に差別化できる要素になるとは言い切れない。そこで、スシローが中長期的な成長を実現する上で何を考えていけばよいのだろうかと妄想を膨らませてみた。

 

 そのヒントになるのがサーキュラーエコノミーという考え方ではないだろうか。どの業界においてもそうであるが、これからはサーキュラーエコノミー発想でのビジネスシフトが求められると考えられ、それはスシローにとっても例外ではない。

 ここでサーキュラーエコノミーとは何か、について概説したい。今までの資本主義経済はGDPが豊かさの象徴的指標とされてきたが、GDPは1年間という短期的な経済に限った指標であり長期的予測が不可能であること、廃棄物・汚染・資源枯渇を無視した指標であること、GDP=幸福度が乖離していることなどを受け、昨今その前提が崩れてきている。そのような中、ニューノーマル時代の新たな資本主義を形成する指標としてドーナツエコノミーと呼ばれる指標が誕生し、その指標を実現する手段としてのサーキュラーエコノミーという考え方が提唱された。

ドーナツエコノミーとは、プラネタリーバウンダリー(=地球の限界)という人類が安全に活動できる境界を超えるレベルに警鐘を鳴らす地球システムを捉える概念を前提として生まれた指標であり、その指標を基に形作られた目標としてSDGsがある。SDGsは今やどの企業もベンチマークしている目標であるが、それを実現する手段であり一つの視点としてサーキュラーエコノミーという考え方があるのだ。サーキュラーエコノミーは、従来の“たくさん作ってたくさん売る”ことを模索してきた一方通行のリニアエコノミーとは異にし、完全に廃棄という概念をなくし、“ゼロウェイストな世界を実現する”視点である。消費者の社会問題に対する意識が高まる昨今において、これからの新たな資本主義を導くルールであり、競争戦略の大きな一因であり、成長のエンジンとなる考え方になると言われている。

 

 翻って回転すしというビジネスモデルは、何よりもレーンに並んでいたすしの廃棄が利用する側としても気になるところだ。今後社会問題に対する消費者意識が高まるにつれ、これは回転すしビジネス全体が消費者を取り逃す致命的な欠陥になりかねない。日本はまだまだサーキュラーエコノミーに至る中間段階でだと言われている。スシローの廃棄削減の取組について調べてみると、AIを活用して商品データを予測管理し、廃棄量を75%削減しているといった企業努力をしており、これは大きく評価できる。だが、これは既存のビジネスモデルの中での発想であり、根本的にゼロウェイスト(つまり廃棄ゼロ)を前提にしたビジネスモデルの再構築は考えられないだろうか。裏を返せば、これを実現すれば他社とは大きく差別化され、回転すしビジネスを新たなステージに引き上げる成長を遂げられるのではないだろうか。

 例えば、サーキュラーエコノミーに対する取組みの進むオランダではアムステルダムに「Instock」というレストランがある。ここは、オランダの大手スーパーであるアルバートハインと提携し、毎日廃棄される食材を使って有名なシェフが毎日違うメニューを提供しているレストランである。スーパーでもゴミが出ず、レストランでもゴミの出ないビジネスモデルで好評を博している。(もちろん、普通は廃棄食材を食べたいなどとは思わないが、それを覆すシェフの知名度と値段設定を巧妙に設定しているところに成功要因はあると思うが・・・)

 このモデルをスシローは応用できないだろうか。ジャストアイデアであるが、例えば、有名な天ぷら職人などを組織し、各店舗の近くに安価でおいしい天ぷら屋さんを作り、そのモデル自体をPRするなども考えられる。(ゼロウェイスト発想なので、天ぷら屋さんで出る油なども処理工場、建築業界などと連携し土木建築材料などに加工するまで含めて実装していくことが重要)

 

このようなサーキュラーエコノミー発想でのビジネスモデル転換によって、社会価値の発揮による消費者へのブランド訴求だけでなく、水産資源の需給ひっ迫による原価高騰が進む中でも、無駄を省いて利益を確保する体制を実現でき、今以上に他社よりもコスパ良くサービス提供できるようになることで実利的な面での差別化もより進めることができるのではないだろうか。

 サーキュラーエコノミーは、回転すしに限らず今後どのビジネスにおいても重要な視点を投げかけてくれる考え方だと思う。とはいえ、これまでのリニアエコノミーでの勝者たちが自分たちのこれまで勝ってきたビジネスモデルを再構築することは一朝一夕では難しいだろう。スシローのように順調に利益を出している企業こそ、今のうちに新しい地平に漕ぎ出し市場全体を生まれ変わらせることが重要ではないだろうか。(利益がひっ迫している現状のくら寿司ではなかなかそういった投資は難しいだろう・・・)

回転すしに限らず、飲食店をはじめとして自分の身近にある産業が今後どのような変化を成し遂げるのか、消費者の一人として期待して見守っていきたいと思う。

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