2021.08.30
新任マネージャーはまず、アサーションを身につけよう!
2021年度がスタートして約半年が経過しようとしている。新年度からマネージャーになった人は、これまでメンバーとして“自分自身がタスクを担う立場”から、“人にタスクを担ってもらう立場”へ変わったことで、戸惑いや悩みを抱えている人も多いのではないだろうか。マネージャーになり人や組織をマネジメントする立場では、仕事の仕方や相手とのコミュニケーションの取り方など、これまでのやり方から変えなければならないことも多い。
一方で、部下となるメンバー(若手)も徐々に変化している。「2021年度最新若手意識調査」iによれば、20代の若手社員の約9割は、『自分は何のために働くのか』という“仕事観”や、『どのように働き続けたいか』という“キャリア観”を、明確には持っていないという。
これからのマネージャーは、様々な価値観や背景を持った人たちの力を有効に活用し、期待する成果を出さなくてはならない。そのためには、自組織のメンバーをよく理解し、自分と相手の双方が気持ちよく仕事ができ、互いに協力していくような組織の状態を作り上げ、率いていく必要がある。また、仕事での様々な経験は、メンバーの組織貢献や社会貢献などの“仕事観”や、自己成長などの “キャリア観”にもつながっていく。それらを見出すサポートも、マネージャーとしての役割の一つである。メンバーの組織貢献意識と挑戦意欲の向上が、組織の持続的な成長につながっていくのである。
さて、自分と相手どちらも気持ちよく仕事ができ、互いの協力を引き出しながら組織を率いていくための有効な方法として、『アサーション』という考え方がある。『アサーション』とは、“自分も相手も大切にした自己表現やコミュニケーション”のことを指し、自他尊重の自己表現と言われている。iiそして、お互いにアサーションが出来ている状態を『アサーティブ』と言い、自分の気持ち、考え、信念などを正直に、そして率直に、その場にふさわしい方法でやり取りするものだ。つまり、アサーションとは、マネージャーとしての自分自身と、メンバーである相手がお互いに主張して、共有できることを見つけるための方法である。これは、上位者として割り振った仕事を指示・命令していくような、所謂「指揮命令系統」によるコミュニケーションスタイルとは、全く異なる考え方である。
先に取り上げた若手意識調査結果では、仕事観やキャリア観を明確に持っている若手は、身近な人とのコミュニケーションに大きな影響を受けて、自身の仕事観やキャリア観を持つようになるという。このことからも、上位者からの指示・命令のような一方通行のコミュニケーションだけではなく、アサーションを活用した、双方向のお互いを大切にしたコミュニケーションが重要なのである。
では、アサーティブなコミュニケーションを体現するにはどのような行動を取ればいいのだろうか。アサーションでは、自己表現のタイプを「非主張的」「攻撃的」「アサーティブ」の3つに分類している。例えば、『相手に依頼した仕事が指示通りではなく、求めていたレベルに到達していなかった場面』を想定すると、タイプ別の主張や行動の違いは次の通りになる。
「非主張的」 :何も言わずに引き取って自分自身で手直しをして完了させる。
「攻撃的」 :指示通りではないことについて、ただ怒鳴り散らす、ミスを一方的に指摘する。
「アサーティブ」 :指示の内容と求めているレベルを改めて冷静に伝え、本人が独力でできること、 サポートが必要なことを話し合う。
このように、自分と相手を尊重し、妥協案を提示しながら次の行動に繋げていくのがアサーティブな自己表現なのである。
では、アサーティブなコミュニケーションを通じて組織をどのように率いて行けばよいのか?
アサーティブな自己表現を通じてアサーションを実践していくために、『心・技・体』それぞれに意識を向けて、日々実践していくことが大切だ。
『心』:自分は相手にどうして欲しいのかを冷静に考える。
人の怒りは、自分の理想や大事にしていること、“こうあるべき”という『価値観』に対して、その通りにならない現実や事実が発生している状況(ギャップ)で起こるマイナス感情だ。自分は何に怒っているのか、どうして欲しかったのかを冷静に受け止め、現実や事実、相手の状況を冷静に照らし合わせて考えることが大事だ。そのようなスタンスが、相手との建設的なコミュニケーションを図ることに繋がり、お互いが主張して、共有できることを見出す(アサーティブな状態)助けになる。もし、怒りの感情が沸いてしまったら、ひと呼吸おいて冷静になることを取り入れてみて欲しい。
『技』:“私”を主語に「自分自身の考え」と「どう感じたか」を丁寧な言葉で表現する。
自己表現の「攻撃的」なタイプとして、ミスを一方的に指摘している場面を想像してほしい。その時、「あなたはなぜ出来なかったのか!」や「あなたはいつもこうだ!」などと発言していることだろう。この時の相手の反応が、「攻撃的」もしくは「非主張的」な自己表現となることが多いのは想像に難しくない。こういう場合、「私は怒っている」「私はあなたのその行動は好きになれない」「残念に思っている」という伝え方の方が、相手も素直に受け取ることができる。人は論理的な正しさだけで行動するよりも、感情が引き金となって行動することが多い。ぜひ、あなたの感情を“私”を主語にして、丁寧な言葉で伝えてみて欲しい。感情を「攻撃的」にぶつける時よりも、相手はあなたのことを理解し、次はあなたの期待に応える行動を取ることだろう。
『体』:ノンバーバル(非言語)コミュニケーションに気を付ける。
実は、人がコミュニケーションを通じて受け取る情報の全てを100とした場合、言語情報は7%だが、非言語情報は93%にもなると言われている。iii言葉以外の手段を用いたコミュニケーションのことをノンバーバル(非言語)コミュニケーションと言い、人の表情・目線・身振り手振り・声の調子・香りなど、人間の五感によって認識するものが該当する。ノンバーバルコミュニケーションは、①伝えたい言葉を補完する、②相手へ安心感を与えることができる、③相手の気持ちや状況理解の助けとなる、というメリットがある。ぜひ、自分と相手の非言語情報も大切にしたコミュニケーションを心がけて頂きたい。
アサーティブな自己表現とは、自分の気持ち、考え、信念などを正直に、そして率直に、その場にふさわしい方法で表現することであり、常日頃から相手との良好なコミュニケーションができていることが前提となる。
まずは、マネージャーとして、自組織をどのようにしていきたいのか、自分自身の考えをしっかり持ち、その考えをメンバーとの間の共通認識として共有しておくことが必要になる。目指したい組織の姿に向かうため、メンバーにはどのような役割を担って欲しいのか、またメンバーが今出来ること、今後出来るようになりたいことを深く理解し、マネージャーとして出来ることを探し続けていくことが大事なのである。
マネージャーの役割は、一般的に『組織づくり』と『人づくり』を通じて『社会に貢献すること』と言われている。自分自身が出会ってきた優秀なマネージャー像を理想的なロールモデルとして、同じように実践すればよいと考える人もいるかもしれない。しかし、自分自身もメンバーも育ってきた環境や出会った人などの背景が異なる中で、ロールモデルと同じように実践しても、うまくいかないことが多く、壁に当たるだろう。ロールモデルを参考として取り入れながらも、最終的には“自分自身はどうしたいか”という自分の在り方や自分らしさ、つまり、自分自身の仕事観やキャリア観によって、自ずと自分自身の行動は決まってくる。将来の自分が企業のどのようなポジションで、どのような仕事をしていたいかを想像しながら、今の組織づくりのプランを考えてみることで、自分自身がとるべき行動が見えてくるはずだ。
アサーションとは、単なるコミュニケーションテクニックではない。アサーションの考えと行動の根源は、『人は誰でも自分らしく生きる権利がある』という点にある。会社の中で自分らしく生きていくために、まずは、自身の内面ととことん向き合う旅を続けて欲しい。近い将来、より多くの企業人が自分らしく生きている社会になっていることを期待したい。
ⅰ 「2021年度最新若手意識調査」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000058096.html
ⅱ 『よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方』監修 平木典子 編者 主婦の友社
ⅲ メラビアンの法則:https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-19873.html
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