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2022.01.11

キラキラネームは闇にあらねども

 COVID-19の感染状況も落ち着き、今年の正月は久々に帰郷できたという方も多いのではないだろうか。私も実家に帰り、地元の友人と少しばかりの宴席を設けたが、一抹の寂しさを感じた場面があった。いつもであれば朝方まで付き合ってくれていた旧友が、家族のためと帰宅が早かったのだ。皆、家族があり、親になったのだなあと感心しつつ、お酒と共に寂しさを飲み込んだのを想い出す。

 

 「憶良らは 今は罷らむ 子泣くらむ それその母も 我を待つらむそ」

これは万葉集の山上憶良(660-733)の歌である。憶良が正月の宴席を早めに辞去する際に詠んだ歌であるが、現代語訳をすると「憶良のような者はもう失礼しましょう。家では子どもが泣いているでしょうし、その子の母もわたしを待っていることでしようから」となる。正に旧友はこの歌の想いそのままに帰路についていった。憶良のように子を想う気持ちは、時代を超えてもなお、移り変わるものでないようである。

 親となれば子を想い、悩むことは多岐にわたるだろう。その中でも”子の名付け“という行為は親から子への最初の贈り物である。名は体を表すと言われるだけに、大いに悩む親も多いのではなかろうか。そんな”子の名付け“について、あるニュースを見てふっと思ったことがある。「これは国ごとに特徴はあるのだろうか」今回はその疑問を記事にしてみた。いわゆる“キラキラネーム”についてである。

 

日本でのキラキラネーム

 「一番」(とっぷ)、「時間」(ゆめ)、「耳長」(うさぎ)、こちらは2021年に名付けられた珍しい名前ランキングからの抜粋である。まさに読者の皆様の想い浮かぶキラキラネームであろうが、このニュースを読み、今回の記事に至った。この造語が頻繁に使われるようになったのは2010年頃であるが、今も「キラキラネームを付ける親は軽率だ」と、非好意的な言葉として使用されることが多い。世間一般からみると、教養欠如といわれ、就職にまで悪影響を及ぼすとの指摘もあるほどイメージが悪い。この芳しくない世評が耳に入らないはずはないのに、現代の子育て世代はなぜ個性を求め、キラキラネームをつけてしまうのであろうか。

 そもそも、名を付けた親本人がキラキラネームだとはつゆほども思っていない場合も少なくない。見慣れてくると読み方の予想がつくようになり、知らず知らずのうちにキラキラネームに対する「アウト」「セーフ」の判定が曖昧になってくる。例えば、人気子役の芦田愛菜(まな)ちゃん、本田望結(みゆ)ちゃんなどの名前は、読者の皆様も初見は読み方がわかりにくいと感じたかもしれない。しかし、一度読めてしまえばすぐに慣れ、今ではなんの違和感もなく受けて入れているであろう。

 日本のキラキラネームの特徴は、音の響きにこだわるあまり、音と漢字を強引に組み合わせている点である。これは、日本名の大半を構成している漢字が「表意文字」であることに起因している。「表意文字」とは個々に意味を持つ文字のことで、正確な読み方は分からなくても、漢字のつくりを見ればある程度の意味を理解できる。音の響きを大切にし、なおかつ願いを託した漢字を使いたい。そんな想いから、上述のような「一番」(とっぷ)などは、名付ける際に漢字のイメージを重視し、今までの常識からは外れた漢字の読み方をしてしまう結果を招いたのである。

 

英語圏でのキラキラネーム

 漢字のような「表意文字」に対して、音声を媒介として意味を伝える文字「表音文字」がある。「表音文字」の代表格であるアルファベットは文字一つ一つには意味は存在しない。では、「表音文字」であるアルファベットを言語として用いる英語圏には、キラキラネームという文化は無いのであろうか。結論から述べると、英語圏にもキラキラネームは存在するようだ。

 イギリスの赤ちゃん情報Webサイト 「TheBabyWebsite」 が2010年に行った「英米で最も不幸な名前」の調査結果によれば、jo + king(=jokingジョーク」、Sue + Shi(= sushi 寿司)、Hammond  + Eggs(= ham and eggs ハムと卵)これらのように、ファーストネームとラストネームを組み合わせた名前が増えてきているという。

 このように英語圏では、文字の意味ではなく、スペルの組み合わせで一般常識から逸脱した単語が名前に使われた場合がキラキラネームとなるようだ。

 

中国でのキラキラネーム

 中國でも英語圏と同じ、姓と名前が合体することで、特定の意味を持たせる場合がキラキラネームとなるようだ。例えば「韋」という姓に、「多利亜」という名前を付けると「韋多利亜=ビクトリア」と読ますことができる。実際にあった例を挙げると、中国最大のメッセージアプリWeChat(微信)は周知であろうが、そのWeChatを運営するテンセントが配信している「王者栄耀(ワンゼェーロンヤオ)」というオンラインゲームが人気を博している。このゲームの大ファンである王さんが「者栄耀」と娘に名付けたということで話題にあがった。戸籍登録の写真までネット上に公開しているとのことだから驚きだ。

 また、中国でのキラキラネームは、上述のように4文字であることも特徴の一つである。これまで中国人(ここでは少数民族を除く)の名前は2文字から3文字がほとんどであったが、最近は、4文字の名前が増加傾向にある。中国全戸籍を調べてみると、2019年の全戸籍の内、4文字の名前は0.7%いるのに対して、2019年新生児戸籍では4文字名前の割合は1.7%と、割合が高まっている。また、1950年代4文字以上の名前は0.3%であったのに対し、現在では1.6%まで増加している。たかだか1%強の増加と思うかもしれないが、中国人口14億人と考えると増加人数は馬鹿にできない。

 中国のキラキラネームも日本同様、子に個性のある名前をつけてあげたいという親心を表しているが、これには歴史的な背景からの影響もある。中国の現在の子育て世代である20代は「90後(ジョウリンホウ)」(1990年以降生まれ世代)と言われ、1979年から2015年まで続いた「一人っ子政策」時代の親が、個性を大事にした子育てをしてきた世代である。そのため、自分の子どもに個性的な名前をつけようとする傾向が見られるようだ。

 加えて、姓の数も影響している。中国の姓の数は約6000と言われており、世界で比較をしても圧倒的に少ない国である(日本は約30万、アメリカは約150万)。さらに、実際に多い姓は「王」、「李」、「張」など100程度しかなく、約100個の姓が人口の9割を占めている。必然的に2文字、3文字では同姓同名が多くなるので、個性を強くしたいと願う現役世代が、4文字の名前をつける気持ちにも頷ける。

 

人の親の心は 闇にあらねども

 このように日本だけでなく、世界の国でも個性的な名前を望む親は共通しているらしい。人口増加や多様性が広がる現代では、個性を求める親が増えることも自然の流れのように思えるし、その気持ちも理解できる。一方、今回とり上げたニュースのように、キラキラネームは各国でも報道され、一般常識を逸脱していると非難する声が多いのも事実である。

 「人の親の心は 闇にあらねども 子を思ふ道に 惑ひぬるかな」

 これは『源氏物語』を書いた紫式部の曽祖父、藤原兼輔(877-933)が残した歌である。

「親が子を想う気持ちに闇の部分など無いが、いくら理知的な人物でも子を想う気持ちから迷いが生まれ、冷静さを失うことがある」と兼輔は詠った。

 ”子の名付け“という行為は親から子への最初の贈り物。子の将来を案じ、子の人生に希望を託す、個性的な名前を付けることは決して悪いことでは無い。ただ、親の想いが子の将来を傷つけてしまう、そのような悲劇だけは避けたいものである。個性的な名前を付けることが第一義になっていないか、今一度冷静になるきっかけとして、名付けをする親に兼輔の歌を送りたい。

 

浅草キッド

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