2022.03.08
参拝のススメ
日々の生活をしている中で、不安や焦り、疲労等に起因するストレスを抱えることがある。そのストレスを解消するための「癒し」を求める手段として、人それぞれ様々な選択肢があると思うが、私の場合は神社や寺を巡ることがその手段となっている。私は、以前から神社や寺に神秘的な「何か」を感じており、そのインスピレーションが私に「癒し」を与えてくれているように行く度に感じる。
一般的に神社と寺に参拝する人は、日々の感謝の気持ちや願いを神や仏に伝える為に訪れることが多いのではないだろうか。様々な祈願や初詣、結婚式といった年中行事で多くの人が神社や寺に訪れるが、日本人全体でみると無宗教の人も多く、日常的に頻度高く神社や寺を参拝する人はそこまで多くないかもしれない。では、何かのタイミングで人が神社や寺に参拝するのはなぜなのだろうか。そこには科学的な効果も果たしてあるのだろうか。参拝することの意義について自身の経験も省みつつ考察してみたい。
1.神社と寺の違い
日本にある宗教施設としては「神社」と「寺」が代表的に存在するが、まずはそれらの違いは何かについて歴史を振り返り整理する。
仏教はインドで生まれ、6世紀に日本へ輸入されたが、6世紀以前から日本人が崇拝していた宗教として、神道が存在していた。仏教が輸入されて以降、神道と仏教、二つの宗教が存在するようになり、538年には「神道対仏教の論争」が起きたと言われている。海外では宗教の対立により戦争にまで発展する事例が多々ある。16世紀神聖ローマ帝国で起きた三十年戦争では、ドイツ内のキリスト教新旧両派の対立が全ドイツに広がり、西ヨーロッパの新教国、旧教国がそれぞれ介入し大規模な国際戦争となった。ただ、日本では王権が、天皇を天津神の子孫とする神話のイデオロギーと、仏教による鎮護国家の思想をともに採用したことから、神仏関係は次第に緊密化し、平安時代に「神仏習合思想」が広まるようになった。
しかし、明治維新により「神仏判然令」が発令されることで神仏習合の風習を壊す政策が発令され仏教を排撃し,神道を重んじようとする過激な廃仏毀釈運動が起こった。その為、再び「神社」と「寺」の分断が広がった。
以上のように、歴史的には融合と分断が繰り返された過去があるため、現代でも「神社」と「寺」の区別が明確にされていない。あえて区別するならば、「神社」は、神道の信仰に基づく祭祀施設であり産土神、皇室や氏族の祖神、偉人などの霊などが神として祀られる。「寺」は、仏教を信仰する僧侶が住み仏教の教義を学び、仏法に従えば国を護り鎮めることができるという考えがあり、祈りの場として整備されている。以上のことから多くの人が祈願する際、「神社には神」、「寺には仏」に対して祈願していることとなる。
2.神社と寺で得られる参拝による効果の違い
次に、「神社」と「寺」の参拝で得られる効果について、理解を深めていこう。
参拝の作法であるが、神社と寺は多少異なるため、意味合いについて比較していく。
・神社
1. 鳥居をくぐる
一般社会と神域を区切る結界のような意味があるともいわれている。
2. 参道の歩き方
参道の中央は神の通り道として歩くことを避けて進む。また、参道の中央を横切る際、軽く頭を下げながら
通ることや、中央で神前に向き直し一礼してから横切る。
3. 手水
参拝前に手を洗い、口をすすぎ、身も心も清める。
4. 拝礼
賽銭箱の前に立ち会釈をし、神に捧げる真心のしるしとして、賽銭箱にお賽銭を入れる。
二礼二拍手一礼は神に感謝の気持ち表す動作と、神を招き邪気を祓う意味がある。
・寺
1. 山門をくぐる
山門は神社で言えば鳥居と同じで、一般世界と俗界との境界。
2. 手水
参拝前に手を洗い、口をすすぎ、身も心も清める。
3. 梵鐘を撞く
鐘の音は「仏の声として広く届ける」という意味を持つ。
4. 拝礼
寺で手を叩かないのは、廃仏毀釈の影響であり、以前までは手を叩く作法であった。寺と神社を区別する政策を
とることで、拍手も神社のものと考えられている。
また、神社や寺を訪れると目にする「お守り」だが、どちらでも受けることができる。しかしながら、その意味合いにも違いはある。
神社のお守りは、奉製された後ご神前でお祓いされ、神の御霊が鎮められている。その為、神の力が込められているものと言える。
一方、寺の「お守り」は読経や焼香などの儀式が施されており、祈りがかたちになったもの・祈りの賜物と言える。ちなみに、余談ではあるが仏教のお守りがない地域や宗派もある。
また、「お祓い」に関しても触れておきたい。「お祓い」という考え方はもともと神道の考え方であり「お祓い」を行うことで、罪や穢れが取り除かれ本来の姿を取り戻すことができるといわれている。寺でも「厄祓い」・「厄よけ」といって、祈祷を受け付けているところもある。したがって、現在はそれほど厳密に分けられてはいない。
以上のことから、神社と寺はその習わしや意味合いに多少の違いはあるものの共通点も多く、(特に無宗教派の人にとっては)参拝における効果としては大きな差がないと考えられる。
3.参拝する目的
次は少し視点を変えて、神社や寺に参拝することの目的について考察する。
本来、参拝する目的は一般世界と異なる空気の中で、祈願や日々の感謝を神仏に伝えることであり、その行為を通じて自身に誓いを立て自らの心を整える効果もある。(効果については後ほど詳述する)
神社や寺に多くの人が参拝するような行事でもその目的感は変わらない。例えば、催しの一つとして代表的な初詣では、「(旧年の)感謝を伝える」・「(新年に)願掛けする」ことがその目的であると言われているし、その他、神社や寺で行われる「祭り」や「縁日」などのほとんどの催しも、神仏に対して祈願と感謝を伝える場とされている。特にこのような催しのタイミングでは神仏との距離が普段よりも近くなると言われており、祈願や感謝をより神仏に伝えることができる。
まとめると、神社や寺に参拝する目的は、行事のような催しのタイミングでの参拝であろうが日常の中での参拝であろうが、祈願や日々の感謝を伝えることに相違はない。しかし、個人的には催しのような人が多いタイミングで参拝することよりも、落ち着いた状況でできる日常の参拝の方がその副次効果である自らの心を整える効果はより期待出来ておすすめである。
4.今のビジネスパーソンへの参拝のススメ
最後に、そのおすすめした日常の参拝がもたらす効果について、科学的な見地からも検証し、特に仕事のストレスを抱えているようなビジネスパーソンにとっての重要性を述べたい。
神社参拝が自律神経系に及ぼす影響について科学的検証を行った実験を島根大学が行っている。神社参拝によって副交感神経活動が有意に増加し,POMS2というシステムではネガティブな感情がポジティブな感情に変化することがわかっている。(POMS2:一時的かつ変動的な気分や精神状態を評価するシステムであり、【怒り-敵意】【混乱-当惑】【抑うつ-落込み】【疲労-無気力】【緊張-不安】【活気-活力】【友好】の7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD得点(被験者の気分を表す指標)」から、気分状態を評価することができる)このことから、参拝は科学的に人体へ好影響を与える行動といえる。本件に関しては寺の参拝であっても同様の効果が期待できるのは想像に難くない。
また、「神社や寺への参拝回数」・「年収」・「幸福度」にどのような関係があるのかアンケート調査もみてみると、年2回参拝する人は、年収1000万~1500万未満と同程度の幸福を感じているという結果がでている。
以上のことから、神社や寺に参拝することで、自分自身の精神や心を整える効果もある上に、幸福感も得やすいことがわかる。
厚生労働省の国民基礎調査から、12歳以上の約48%の人が悩みやストレスを感じていることがわかっている。特に仕事でストレスを抱えているような人は、神社や寺を参拝することで、副交感神経を優位に働かせることができ、ポジティブ感情を増幅させて心身を整えることが期待できる(し、もしかしたら運も良くなるかもしれない)。結果、仕事をポジティブに効率的にこなし、ストレスを抱えるケースを減らすことにもつながるだろう。つまり、神社や寺は参拝者の活気や活力を引き起こすスポットになっていると言えるのではないだろうか。
また、参拝することの目的のところでも触れたとおり、神社や寺は願いを掛ける場所というだけではなく、心を落ち着かせ、自身と向き合うことで自身の誓いを立てる場所としても存在する。自身と向き合うことで「やりきるんだ」という決意を固め、神や仏の前で約束することで、神や仏に守られている安心感と同時に科学的な効果を昔から人は受けていたのだろう。人が成すべきことがある以上は、これからも神社や寺という存在はあり続け、永遠に付き合うことになるだろう。
なお補足にはなるが、神社や寺からは建てられた時から現在までの歴史も肌で感じることができる。特に「神樹」は神社に祀られていることが多く、樹齢1000年以上のものも存在する。そこから感じるパワーや迫力は実際に訪れると圧巻されるものだ。また、なぜその場所に神社や寺が建てられたのかを、歴史から紐解くことで、更に面白みが増す。現在ではコロナの影響で外出を控えている人も多いと思うが、私自身が趣味としている御朱印集めは旅の思い出ともなり、スマホで撮影した写真とは違う旅の記録を残すことができる。こちらも各神社や寺によって書式が異なるため全国に張り巡らされたスタンプラリーのような感覚で集めるのもいい。ぜひその直接的な価値を期待するだけではなく、神社や寺に参拝することも趣味としてはお勧めなので、皆さんもコロナが終息した際には新たな選択肢として行ってみてほしい。
参照:出雲大社参拝ツアーの新たな魅力作り-科学的視点からの検証出雲大社参拝ツアーの新たな魅力作り-科学的視点からの検証 島根大学
書籍:「成功している人は、なぜ神社に行くのか?」 著者,八木 龍平
「よくわかる神社の本―参拝の基礎知識からご利益まで」 著者,日本博学倶楽部