2022.02.21
幸福度とは?
ペットフード協会の2021年全国犬猫飼育実態調査によると、猫の推計飼育数は14年から8年連続で犬を上回った。猫の飼育頭数は2013年以来、新規飼育頭数含め緩やかに増加している。犬については、20年比減少しているものの、コロナ前後で比べると増加している。同調査によると、新型コロナ後に飼育し始めた人に共通する特徴的な影響は、犬飼育者では「心穏やかに過ごせる日々が増えた」、猫飼育者では「毎日の生活が楽しくなった」である。20年に続き、新型コロナ前と比べて、ペットと過ごす時間が増え、ペットを「癒し」と感じる人も増えているようだ。ところで、ペットは“飼い主の幸福度に関係している“と言えるだろうか。
本稿は、“幸福度”という側面から、働く人にとっていま求められている重要な視点は何かを考察していきたい。
国連が3月19日に発表した世界幸福度ランキング2021年版(World Happiness Report 2021)では、フィンランドが4年連続で1位となり、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位オランダと続いた。日本は前年から4つ順位を上げたものの56位にとどまった。同ランキングは、主に次の6つの項目のアンケート調査を中心に選出されている。
1.一人当たり国内総生産(GDP)
2.社会的支援
3.健康寿命
4.人生の自由度
5.他者への寛容さ
6.国への信頼度
日本は、「人生の自由度」と「他者への寛容さ」が上位10カ国と比べ低い。その原因として、今回は「労働環境」に着目し考えてみる。フィンランドの労働環境において、「16時退社」「1か月の夏季休暇の取得」などの情報はよく目にするだろう。それに比べ、日本では、「長時間労働」や「サービス残業の常態化」、それによる「過労死」など、労働環境における問題はキリがない。有給休暇においては2019年4月に「年5日の有給休暇取得の義務化」が行われ、やっと働き方改革がなされ始めてきた、というところであろう。業界によっては、他者の休暇によって自身の業務が増えることで良い顔をしない雰囲気があったり、それによって自由に休暇を取りづらい雰囲気があったりすることもある。このように働き方改革の実感値が全く得られていない労働者もいるのではないだろうか。まさしく「自由度」と「寛容さ」が足りないと言える。ただ、このような労働環境は、組織や企業文化の問題、業務量の問題など様々な要因が絡んでいるため、個人で解決できる問題ではない。しかしながら労働時間という切り口だけで見ると実は、事業者規模5人以上における常用労働者1人当たり平均年間総実労働時間数は、1990年時点で2064時間であったのに対し、2020年は1621時間に減っているとJILPTは報告している。労働環境における幸福度の阻害要因は労働時間以外にもある可能性が高いと考えられる。
株式会社ビズヒッツによる働く男女1,000人に「会社を辞めたいと思う瞬間」についてアンケート調査を行った結果、「職場の人間関係が悪い」「理不尽な扱いや叱責を受けた」「上司と合わない」などが上位にあった。職場で自由に発言ができないことや、自分と違う価値観を持つ相手の価値観を認めて理解する寛容さを持ち合わせていないことがあれば、それも「自由度」と「寛容さ」が十分でないと言える。これらは全て、同じ職場で働く人とのコミュニケーションに関することである。 「より良い関係構築の方法」を実践することは、“幸福度の高い労働環境づくり”のために効果的な個人ができることの1つではないだろうか。
人間を「ギバー」「テイカー」「マッチャー」の3タイプに分類できるとしたら、より良い人間関係を構築し、“幸福度の高い労働環境づくり”を実現できる人はどのタイプの人だろうか。これらの3タイプは、全米トップのビジネススクールである「ウォートン校」の心理学者であるアダムグラント氏の著書『GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代』で提唱されている概念である。ギバーは人に惜しみなく与える人、テイカーは真っ先に自分の利益を優先させる人、マッチャーは損得のバランスを考える人のことだ。より良い人間関係を構築し、成功するのはギバーと言われている。ただし、最も成功しないのもギバーなのである。というのも、他者に与えるばかりで自分の利益よりも他者を優先してしまう自己犠牲型のギバーと、他者の利益だけでなく自分の利益にも関心がある成功型のギバーの2種類が存在するため、自己犠牲型のギバーと、真っ先に自分に利益を優先させるテイカーが関わってしまった場合は、都合の良いギバーになってしまうのだ。都合の良いギバーでなく成功するギバーとなるためには、関係構築をしたい相手にとって必要な情報を想像し提供したり、相手を助けつつ自分の利益にも関心をもって行動したりすることが重要なのである。相手を理解するためには、双方の価値観を共有し合える寛容さを持ち、それぞれが自由でいられる環境を作り出すことだ。相手を理解しようとする意識を持ってコミュニケーションをとることは、自身が成功するギバーとなって相手にメリットを与えられる人になるための第一歩とも言えるだろう。
今、自身の労働環境における行動タイプを考えた際、ギバーになれているだろうか。コミュニケーションをとる相手の対応ばかりを気にして、テイカーになってしまっている可能性はないだろうか。「自由度」と「寛容さ」を兼ね備えた成功するギバーが自身の労働環境に増えれば、幸福度の高い労働環境と言えるのではないか。成功するギバーを増やすには、まず自身が変わるのが最も効果的で手っ取り早い。“幸福”を得たいと思うなら、自身が“幸福”を与えるギバーになると良い。
最後に、余談にはなるが冒頭のペットの話に戻ろう。ペットとの生活では飼い主には寛容さが求められる場面が多い。例えば、ペットは決められた場所以外でトイレをしてしまう時もあれば、お気に入りの洋服や家具が噛まれたり爪とぎに使われたりして、汚れてしまうこともあるだろう。夜中にペットの体調が悪くなり、病院に連れていって睡眠時間が減るかもしれない。それでも飼い主はペットとの生活が「癒し」でペットと一緒に過ごす毎日が楽しい。また、アニマルセラピーという言葉があるように、ペットの「癒し」の力は、人間の健康にプラスの影響を与えるとされている。これまで議論してきたような幸福度の観点から言うと、ペットは少なくとも「寛容さ」や「健康寿命」を向上させる作用を人間に与えていることが想像でき、その点では幸福度に貢献していると言えそうだ。
雪うさぎ
ペットフード協会令和3年(2021年)全国犬猫飼育実態調査https://petfood.or.jp/data/
World Happiness Report 2021 https://worldhappiness.report/ed/2021/
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 https://www.jil.go.jp/
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』 アダムグラント著 三笠書房