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2008.06.24

バイオエタノール、世界中で餓死者がでても食糧を燃やす横暴。

 「なんでこんなことになってしまったのか・・・?」。あと1年もしないうちに、自国民の暴動によって国家の元首が天を仰ぐ姿を見ることになるかもしれない。食糧不足と価格の高騰は発展途上国だけでなく先進国でも深刻な問題になりつつあり、いずれは国際問題に発展しそうな勢いだ。農業国の輸出禁止措置(タイ、ベトナム、中国、インド)や旱魃による収穫高の減少により農産物の国際流通量が減少し、水産資源は乱獲による漁獲制限や原油の高騰から漁師が操業ができなくなるなど水揚げが大幅に減ってきている。そもそもそういった食料生産高が増えにくくなっている状況に加え、食糧が化石燃料に代わる代替燃料として原材料にまわされるようになったことで、食用としての供給量がさらに減少することとなった。さらに追い討ちをかけるように、食糧が儲かりそうだとわかった途端、野放しのファンドマネーがちょっかいを出しはじめた。こういった様々な状況から、価格高騰に歯止めがかからないインフレスパイラルに突入しようとしている。

 そもそもの事の発端は、2007年1月のブッシュ大統領の一般教書演説の中で、地球温暖化対策として化石燃料から穀物を原料とした燃料(バイオエタノール=以降エタノール)への代替の推進と、その増産政策が大々的に発表されたことだ。米国は京都議定書を批准しなかったが、世の中の趨勢として地球温暖化対策に取り組まないわけにはいかない。自国だけがいつまでもガソリンをがぶ飲みしていたのでは、世界のリーダーとしての面目がたたない。そこで目をつけたのがエタノールだ。エタノールはカーボンニュートラル(原料となる植物の生産時にはCO2を吸収し、燃料化して燃やすときにCO2を排出するので、プラスマイナスゼロという発想)であるので、自動車の燃料としてガソリンの代わりにエタノールを使うことは、自国の自動車社会の機能を維持しつつ、ガソリン消費の抑制につながり、まさに一石二鳥の地球温暖化防止貢献策ということだ。

 それをうけ米国ではトウモロコシの大増産に入った(米国産のエタノールの原料はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビ、カナダは大麦小麦)。04年のトウモロコシ生産量は2.8億トンに対して07年は3.3億トンであり約18%の増産だ。エタノールの生産量は04年が143億トンに対して、07年が246億トンであり約72%の増産だ。食用から燃料への用途転換が確実に進行していることを意味している。これまで大豆を栽培していた畑が続々とトウモロコシ畑に変わり、08年の大豆作付面積は前年比で11%も減少した。トウモロコシはシリアルや食用油、あるいは家畜を育てる飼料の原料として、常に安定した価格を保っていた。しかしエタノール化するという用途ができたため、食用に回る分が減ったことでトウモロコシの価格が高騰し、さらにトウモロコシを由来とする食材や食用油などすべてにわたって波及し始めた。さらに飼料にまわる分も減ってしまったので、その穴を小麦や大豆で埋めることになり、それらの価格も同時に高騰することとなった。1年間でトウモロコシは約1.5倍、大豆は約1.8倍、小麦は約2倍の水準まで上昇している。

 さて、ここでガソリンのエタノールシフトは世界にとって好ましい選択なのだろうか?。 まずは本来の目的であるCO2抑制への効果だが、植物学的にカーボンニュートラルが成立しているというのが通説なので、ここではその説で論を進める(ただしカーボンユートラルを肯定しているわけではない)。しかし植物を大量に成長させるためには農耕機械を稼働させ、さらに燃料化するための発酵蒸留というプロセスでもエネルギーを必要とする。決してニュートラルとはいえないのだが、化石燃料を単純に燃やすよりは遥かにCO2の排出は少ないと言っていいだろう。ちなみに今のエタノール対応の自動車は、100%エタノールで走るのではなく、ガソリンにエタノールを5%から10%程度混合させたものを燃料としている。排ガスについては、人体に有害であるアルデヒドを含んでいること、アルコール中に酸素を含んでいる為排ガスの窒素酸化物が増加するため、これらの物質を無害化するための触媒などの排ガス浄化装置が必要となる。また運転性能については、従来のガソリン車に比べると発熱量が少ないので燃費が悪いことと、蒸気圧が低いので冷間時の始動性が悪いなどの点が挙げられる。ただこれらは技術開発で克服される問題だろう。

 そしてもうひとつの大きな問題が、食べ物を燃やすという(食糧を燃料化して燃やす)行為そのものの是非である。世界には食べ物不足で餓死する人が後を絶たない。一昔前のお笑い番組で、食べ物を無駄にするコントに対して食ってかかっていたPTA諸氏は、今のエタノールに関してどのような反応しているのだろうか。

 実は米国のトウモロコシは世界の飢餓に対して、少なからずの貢献をしていた。現在でも、米国で生産されたトウモロコシは世界各国に輸出されている。米国内消費分と輸出分を合わせても生産量が上回っていたので、その余った分は経済援助策として、米国政府が安価な価格で食糧不足の発展途上国に輸出するか、国連や国際機関を通じて食糧援助として飢餓の深刻な地域に配給されていた。これによって少なくない数の飢餓者が救済されてきたことは事実である。しかし、食糧の新たな使い道ができたことで、エタノール製造者はトウモロコシを大々的に買い占め、トウモロコシは供給不足となり国内需要だけで精一杯の状態になる。これまで途上国援助にまわしていた分も含めて、エタノールとして活用した方がはるかに高い付加価値で販売することができるからである。最新のデータによると、世界の人口は67億人、そのうち慢性の飢餓に見舞われている人口は8.5億人、餓死者は年間で1500万人に及ぶ。これが食糧のエタノール化によって、さらに増大する可能性がでてきた。そしてこれは発展途上国だけにとどまらない。先進国に輸出していた分もエタノールの生産にまわされることになり、今以上に食糧不足と価格の高騰に見舞われるのは必至である。資本主義は時として横暴であり、それを考えだした人類に対しても容赦なく牙をむく。利益の前では人の命ですら天秤にかけるのである。

 そろそろ超国家的な観点で、エネルギー、食糧、人口、CO2問題に対処しなければいけない時期にきている。食糧、エネルギーは、地球上の共通財産として各国独自の管理から外し、地球規模の超国家組織で管理し、各問題を統合した視点で見直し施策を講じる必要がある。せっかくのCO2削減という試みが、一方では他国の餓死者を増大させるという皮肉な結果に結び付く。それぞれの問題は連携し複雑に絡み合っており、個別に対処できるレベルの話ではないのである。 人は食べないと絶対に生きていくことはできない。それを資本の論理だけ、一国のエゴだけで燃やしてしまうような横暴を食い止められるような仕組みが必要なのである。現在の枠組みでは、自国で生産したものをどう使おうと勝手だろう、と開き直られてしまえば諸外国は何をすることもできない。しかし広大な国土を持った国だけが繁栄を謳歌し、小さい国々が食糧難でバタバタと倒れていけば、いずれは人口の大移動がはじまることになり、世界秩序などは一気に崩壊する。 人類の叡智は、かつて経験した事のない、地球規模の難題の解決策を見出すことができるのだろうか?。全人類の共通の財産として(資源や食糧)の分配方法を真剣に考えないと、いずれ食糧不足国による食糧争奪戦争という形で埋め合わされることになるだろう。その予兆が見えはじめた2008年だ。

マンデー

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