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2008.06.26

日本の使命:GNC先進国としてのインフラ構築

 今年の4月に、イギリスBBCが興味深い調査結果を公表した。調査は昨年10月から今年1月にかけて34か国1万7,000人を対象に行い、各分野で世界に影響を及ぼす14か国・国際機関についての評価を聞いたものだ。この調査によると、日本は世界に「良い影響を与えている」と思う人は56%で、「悪い影響を与えている」との答えは21%だった。「良い影響」はドイツと並んで最も高く、「悪い影響」はドイツの18%に次いで低い数値となり、総合的に高く評価された。日本に対して「悪い影響を与えている」と答えた割合が多かった国は中国(55%)と韓国(52%)の2ヶ国で、それ以外の32ヶ国全てで「良い影響」が「悪い影響」を上回った。ちなみに、日本は2006・2007年度の調査でも「良い影響を与えている」では第1位で、3年連続の1位となった。
 この調査結果から明確な示唆を導き出すことは非常に難しいが、世界中の多くの人から日本が好意を持たれていることは間違いないようである。日本が好意を持たれる理由としては、経済力や国民性などいろいろと考えられるが、その理由はいったい何なのだろうか。

 そのヒントは、アメリカのジャーナリスト、ダグラス・マックレイが提示した「GNC(Gross National Cool):国民総文化力/国民総魅力」という指標にあるのかもしれない。彼は論文(『Japan's Gross National Cool』)の中で、国の文化という無形価値を統合し、国力を評価しようと試みた。論文の中で、明確なGNCの基準を示すことはできなかったのだが、日本のGNCは世界トップクラスだと述べている。そもそもこのGNCという概念を提示した理由が、「日本の大衆文化が世界中に広まり、“COOL”(かっこいい!)という評価を得ている」ことにあるという点は非常に重要である。
 そう言われてみると、日本から世界に輸出されているもので、90年代の後半から特に増えてきたものを挙げてみると、漫画・アニメ・ゲーム・ファッション・食事といった、大衆文化の類が多く出てくる。アメリカでは「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞を受賞しており、「ドラゴンボールZ」・「ポケモン」といったアニメも数多く放映されている。ヨーロッパでも「キャプテン翼」のアニメがフランス、イタリア、スペインなどで放映されている。ヨーロッパの著名なサッカー選手がサッカーを始めたきっかけとして「キャプテン翼」を挙げることも少なくない。またキッコーマンによる2006年の統計では、世界に2万4,000店の日本食レストランがあり、50年前のニューヨーク市内には7軒しかなかった日本食レストランが、現在では400~500件にまで増えてきているとのことである。
 仮にGNCを「自国の大衆文化の他国への浸透度」と定義すると、上記の例からも、日本は世界で有数のGNCが高い国家だと言えるのではないだろうか。BBCの調査結果は、まさにGNCの高さ(=日本の大衆文化の浸透度)がもたらしたと考えられる。

 では、なぜこんなにも日本の大衆文化が世界中で受け入れられるのか。それは、日本の大衆文化が多様性とユニークさを持っているからだと考える。日本の大衆文化が多様性とユニークさを持つ理由はいくつもあり、単純な解はないかもしれない。ただ、1つの文化的背景に根差した見方として、次のような事が言えるのではないか。
多くの先進国は唯一神の社会である。キリスト教であれイスラム教であれ、唯一絶対の神が存在し、神の教えや預言を順守することが、すべての社会生活の前提になっている。一方で日本はすべての事物に神が宿ると考える汎神論の社会であり、木や山・川など八百万のものに神がいると考える文化が根底に流れている。そのため森羅万象すべてのものに生命や人格を付与し、擬人化することに長けているとも言える。その自由な発想があるからこそ、他国からは生み出されることのない、多様でユニークな文化が日本から生まれてくるのだと考えることはできないだろうか。勿論、他国の文化を巧みに日本向けにアレンジしてしまう、日本人の高い受容性と応用力も一つの要因になっているはずである。他国では考え付かないようなアイデアが日本から生まれたことの事例を挙げれば枚挙に暇がないが、最近では『聖☆おにいさん』とう漫画が挙げられる。講談社の「モーニング2」に連載されているこの漫画は、ブッダとイエスを主人公にしたもので、日本人以外では考えられないようなストーリーである。ご興味のある方は、是非ともご一読頂きたい。

 世界から評価された日本の大衆文化を、いよいよ国策として世界へ展開する動きも始まっている。
 経済産業省の肝入りで、松下電産の中村会長を理事長とする「新日本様式」協議会が発足し、日本ブランドを世界に広めようという動きが具体的に進行しており、この協議会の設立趣意書の中では、「総合的な我が国の素晴らしさ=「日本ブランドの有する価値」を向上させ、世界に発信していくことが、我が国の製品やコンテンツの国際競争力の強化につながると考えられます。」と謳われている。
 主な活動として「新日本様式」100選と銘打って、日本発の商品やコンテンツ・美術館などを選定し、「Jマーク」という統一のロゴを用いてアピールをしている。旧来からの輸出商品の中心である電化製品は勿論、盆栽や歌舞伎、プラモデルまでがラインナップされており、その多様さには新鮮さを感じる。

 一方で、高いGNCを活用した国家政策を進めている日本にとって、現在の高いGNCを維持・向上させていく上での落とし穴はあるのだろうか。敢えて挙げるならば、「クオリティの確保」になる。
 クオリティの確保とは、“日本らしさ”を掲げるすべてのものの品質を、如何にして担保するかということである。パリの日本食レストランで初めて日本食を食べるフランス人にとっては、そこで出された食事こそが“日本らしさ”を感じる唯一のものであり、仮にとんでもない食事を出されてしまえば、そのフランス人にとっての“日本らしさ”のエクスペリエンスはネガティブなものになってしまう。事実、フランスでは中国人が経営する寿司屋がとても流行っているそうだが、日本人からするとそこで出される寿司はとても寿司だとは思えないそうだ。また日本のアニメキャラクターの模倣キャラクターが流布している国で育った子どもにとっては、自国で流布しているキャラクターこそが本家であり、逆に日本のキャラクターが偽物扱いされてしまうこともあるかもしれない。当然、多少のローカライズはあり得るが、どこまでがOKでどこからはNGかという線引きが事前に必要になる。
“日本らしさ”を維持・管理する場合の対象はとても広く、また先述の通り、どこまでのローカライズならば“日本らしさ”を担保しているかという基準の曖昧さもあり、このことは非常に難しい問題である。
 では“日本らしさ”のクオリティを確保するためには何をすべきか。今までのように、ライセンスなどの保護を行ったとしても、海賊版やコピーが出回ってしまうことは経験から容易に想像できる。“日本らしさ”を担保するものとして、本物が持ち、粗悪品や模倣品は持たないもので、かつ、簡単に判断できるような要素はないだろうか。世界中で活躍する華僑・印僑らと渡り合うためにも、この要素を見つけ出し、自国の文化力/魅力を適切に他国に伝えられるような仕組みができてこそ、GNCが定量化された国力を示す指標として、意味を持つものになるはずである。

 GNC先進国の日本には、自国の文化力/魅力を適切に維持しながら各国に伝播するためのインフラ作りが求められており、その成否が今後の世界における日本の位置付けを左右するといっても過言ではないだろう。

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