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2025.07.22

孤独の中で、私と出会う

 東京に来て、半年以上が経った。東京に来る前に住んでいた街は、大学時代から慣れ親しみ、人間関係も一定築けていた場所であったが、東京ではそんなつながりがなくなり、誰とも話さずに週末を終える日も少なくなくなった。そんな中でも、仕事や東京での生活に充実感を覚える瞬間もある一方で、ふとした瞬間に押し寄せる「孤独」に戸惑った。オン、オフ問わずつながりが豊富に見える時代だが、私のように実は静かに孤独を抱えている人は少なくないのではないだろうか。自分を含め、この感覚とどう向き合えばいいのか。そんなことを考えてみたい。

 

 まずは、そもそも「孤独」とは何なのか、改めて見ておきたい。内閣官房の資料では、“一般に、「孤独」とは主観的概念であり、ひとりぼっちである精神的な状態を指す”と説明している。似たような言葉の「孤立」は、“客観的概念であり、つながりや助けのない状態を指す”としている。他者とのつながりがないこと(=孤立)が必ずしも孤独を引き起こすとは限らないし、逆に他者とつながっていても孤独を感じることがあるということだ。

 

 内閣府による約2万人対象の「孤独・孤立の実態調査」(令和6年)では、全体の約4割が「孤独感がある」と回答している。特に20代・30代でその割合が高いという事実には、正直驚かされた。さらに、スマートフォン(以下、スマホ)の利用時間が長い人ほど、孤独を感じる傾向があることが分かった。これは、SNSやチャットなどを通じて「常につながっている」ように見える現代においても、孤独が容易に生まれていることを示唆している。たとえ何かと常につながっていても、孤独を感じてしまう。そんな経験をしている人が、実際に今の社会で少なくないのだ。

 

 私自身、東京での生活を通じて、その実感を何度も抱いた。スマホを眺めている時間は、何かとつながっている時間であるが、その時間が長くなるほど、画面をOFFにした時に感じるのは、つながりの充実感ではなく、どこか“置き去りにされたような虚しさ”だった。たとえSNSで誰かと連絡を取り合っている最中でさえ感じるこの虚しさは、見過ごせないほどに心の奥に残るものだった。つながっているはずなのに、どこか「一人である」ような感覚。では、この感覚の正体とは何なのだろうか。

 

 ドイツ出身の政治哲学者、思想家であるハンナ・アーレントは、人が「一人である」状態を「孤立(isolation)」、「孤独(solitude)」、「寂しさ(loneliness)」の3つに分けて考えた。それぞれの意味は以下のように説明されている。

  • 孤立(isolation):他者とのつながりが断たれた状態

  • 孤独(solitude):一人で自分と対話しながら静かに思考している状態

  • 寂しさ(loneliness):自分はたった一人だと感じ、抱えきれずに他者に依存したくなる状態

 アーレントは、「孤立」という状態を単なる断絶ではなく、何かを成し遂げるために必要な時間と捉えている。何かに深く没頭するための準備に向けた、誰にも邪魔されない状態——それが彼女のいう孤立の姿だ。しかし、私が過ごしていた時間は、そうした「能動的な一人」ではなかった。また、「孤独」については「一人の中に二人いる(two-in-one)」とも表現し、自分と対話できる時間の価値を強調したが、私は自分と静かに向き合うような内省の時間を持てていたわけではなかった。そして最後の「寂しさ」については、“他の人々といる時に最もはっきりと表れる”とも言っている。SNSを通じて誰かとつながっているはずなのに、どこか満たされず、どこか不安定な気持ち。この「寂しさ」こそが、私の感覚の正体だったのだと思う。前述の調査のスマホ利用時間が長い若年層の「孤独感」も、実は「寂しさ」の表れだったのかもしれない。

 

 では、「寂しさ」とどう向き合えばいいのか?私は、アーレントの「一人で自分と対話しながら静かに思考している時間」、つまり「孤独」のひとときこそが、その手がかりになると考えている。

 

 前述の通り、現代は、スマホさえあれば誰とでもつながっていられる時代だ。『スマホ時代の哲学』(谷川嘉浩 著)では、つながりが過剰になることで、かえって自分の内側に閉じこもってしまうことがあると指摘している。

寂しさ →(気を紛らわすための)過剰な接続 → さらなる寂しさ。

こうした悪循環が、静かに私たちの中に根づいている。この悪循環から抜け出すには、「誰ともつながらない時間」を意識的に確保することが鍵になる。そして、その時間をただ過ごすのではなく、自分の中の声と対話する時間=孤独のひとときに変えていくことが大切である。

 

たとえば──

「疲れたからゆっくり寝ようか」

「読みかけの本を読み進めたいな」

「ちょっと寂しい気もするけど、静かな時間もいいか」

「夕方には久しぶりに家族に電話してみよう」

 

──そんな小さな自己対話を通して、自分の気持ちに耳を傾けることで、寂しさに振り回されない心の軸が少しずつ育っていく。

自分の中にある声に向き合うことは、自分自身を丁寧に扱うことでもある。そしてその積み重ねが、寂しさだけに覆われていた心に、別の感情や願い──たとえば、休みたい、何かを創りたい、誰かに優しくしたい──を見出す余白を取り戻してくれる。

つまり、寂しさに襲われたときほど、孤独の時間を確保し、自分と丁寧に対話することが、寂しさ以外の感情にも気づき、それらを大切にして生きるための第一歩になるのだ。

 

 つながりがあふれるこの時代に、ふとした瞬間に感じる寂しさや、説明のつかない孤独感。それはきっと、自分と向き合う時間が不足しているという小さなサインだったのかもしれない。誰かと比べず、誰にも邪魔されず、ただ一人で静かに過ごす時間の中で、自分の声を聴いてみる。そんな時間が、私自身を取り戻すきっかけになるのだと思う。

 

 

Pinova

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参考文献:

内閣官房

孤独・孤立対策の基本理念・基本方針等に関する議論の整理

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/dai2/siryou5.pdf

 

内閣府

人々のつながりに関する基礎調査(令和6年)調査報告書

https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r6/pdf/tyosakekka_gaiyo.pdf

 

谷川 嘉浩(2025)『増補改訂版 スマホ時代の哲学:「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険』ディスカヴァー携書、ディスカヴァー・トゥエンティワン

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