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2026.03.09

先ず管より始めよ

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入社五年目の佐藤は、管理職になりたいとは思っていなかった。
上司たちはいつも忙しそうで、会議と調整に追われている。部下の相談に乗り、他部署との板挟みにもなり、夜遅くまで残っている。責任は重く、仕事は増える。それなら自分は専門性を磨きながら成果を出すほうがいい。そう考えていた。

ある日、チームで進めていたプロジェクトが行き詰まった。
メンバーそれぞれが自分の案を主張し、議論はまとまらない。どの意見にも一理あるからこそ方向性が決まらない。会議室には、なんとなく重たい空気が流れていた。

そのとき課長の田中が静かに言った。
「みんなの意見はどれも意味がある。ただ、今回の目的は“顧客の現場を変えること”だよね。そこに立ち返ろう」

田中は誰かを否定することなく論点を整理し、メンバーそれぞれの強みが生きる形で役割を振り直した。会議後、チームは動き出し、プロジェクトは最終的に顧客から高い評価を得た。

打ち上げの帰り道、佐藤はふと思った。
自分一人で出せる成果には限界がある。だが、人の力を引き出し、方向をそろえることができれば、もっと大きな成果を生み出せるのではないか。

それは、自分がこれまで思い描いていた「管理職」とは少し違う姿だった。

 

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 近年、「若手社員が管理職になりたがらない」という声を耳にすることが増えた。昇進意欲の低下を示す調査も少なくない。責任が重い、業務量が増える、報酬差が小さい、人間関係の調整が大変そう──理由として挙げられるのはこうしたものだ。

 

 本稿では、組織として管理職を志向する若手社員をどのように生み出していけばよいだろうか、について改めて考察していきたい。

 

 まず、一口に若手社員といっても、様々な価値観を持った人がおり、その内情は多様である。非常に雑駁ではあるが、「キャリア志向の高低」×「能力の高低」で大きく4つにカテゴリーすると以下のように分類できる。

 

A.浮動層(キャリア志向:高×能力:高)
 自己成長欲が高く、自身の能力もあるため自社の管理職に魅力がなければ転職も辞さない層であり、自社の管理職を志向しない代表的な理由としては、「もっと成長できる環境を選びたい」や「報酬が見合わない」などがよく挙げられる。

B.奔放層(キャリア志向:低×能力:高)
 新たな責任を負いたくなく今の職務で楽しく働きながら専門性を高められればいいと考える層で、冒頭の物語の佐藤もここに属する。自社の管理職を志向しない代表的な理由としては、「ずっと現場で働きたい」や「余計な責任やストレスは負いたくない」などがよく挙げられる。

C.不安層(キャリア志向:高×能力:低)
 マネジメントができるか不安で管理職に挑戦する気が起きない層であり、自社の管理職を志向しない代表的な理由としては、「管理職で通用するか不安」や「部下を管理指導できる自信がない」などがよく挙げられる。

D.安住層(キャリア志向:低×能力:低)
 今の会社で成長するイメージが持てず頑張る気力もないため昇格は諦めて安定して働きたい層であり、自社の管理職を志向しない代表的な理由としては、「自分には適性がない」や「仕事以外の時間も大事にしたい」などがよく挙げられる。

 

 キャリア選択の自由度が増す昨今においては、人材流出リスクは日々高まるばかりであり、組織としても何とかして手を打ちたいところである。では、何をすればよいだろうか。

 

 人の感情は様々なベースとなる感情のカクテルで生まれるといわれており、“自社の管理職に挑戦しよう“という行動を生み出す源泉となる「勇気」という感情は、「希望」「愛情」「恐怖」のカクテルで生み出されるといわれる。つまり、管理職への挑戦を促していくためには以下の3つをうまく醸成する必要があるというのが基本的な考え方となる。
 

  • 希望:管理職になることで得られる明るい未来

  • 愛情:今の職場や仕事への愛着

  • 恐怖:キャリアアップしないことへの危機感

 

 

 例えば、キャリア志向が高くキャリアアップしないことへの恐怖があるメンバーがいても、自社の管理職に対する希望や愛情がなければ挑戦しようという動機はうまれにくいし、自社の職場や仕事に対する愛着があっても管理職になることでの明るい未来像が描けなかったり、キャリアアップしないことへの健全な危機感を有していなかったりすれば同じく挑戦しようという動機にはなりにくい。

 

 この考え方を踏まえ、若手社員の管理職志向を高めていくためには、大きく2つのステップで施策を検討すべきと考えている。

 

Step-1:まず管理職から始める(“希望”と“愛情”を育む)

 管理職の魅力が十分に伝わっていないとすれば、問題は若手の意欲ではなく、管理職という役割の設計にあるのではないだろうか。
 実際、マネジメントの難易度は年々高まっている。組織はフラット化し、メンバーの価値観は多様化し、心理的安全性への配慮も求められる。権限で動かす時代から、納得で動かす時代へと変わった。マネジメントはより高度な専門性を必要とする仕事になっている。それにもかかわらず、多くの企業では管理職の育成や役割設計が十分に追いついていない。結果として、管理職は「やりがいのある仕事」というより、「負担の大きいポジション」に見えてしまう。もし若手が管理職を目指さないのだとすれば、それは彼らの向上心が失われたからではない。管理職という仕事の価値が、組織の中で十分に語られていないだけなのではないだろうか。
 中国の故事成語に「先ず隗より始めよ」という言葉がある。戦国時代の燕の昭王が「賢者を集めたい」と郭隗に相談した際、郭隗は「まず私のような凡庸な者を優遇してください。そうすれば、さらに優れた人が自然と集まるでしょう」と進言したという話から、「大きなことを始めるにはまず身近なところから着手せよ」という教えとして伝わっている。
 まさに「先ず管(管理職)より始めよ」が企業のとるべき施策として重要ではないだろうか。

 

Step-2:次に若手人材を導く(健全な恐怖を育み、克服させる)

 いろいろな企業の若手社員と話をすると、管理職の魅力がないと語る社員の多くは、実際に管理職になるとどういう景色が見られるのかを理解せず、忙しい中で責任を負わされているというような一面だけを見て判断しているケースが多い。
 Step-1で管理職の魅力が理解できる素地が整えられたならば、具体的に冒頭で述べたようなA層/B層といった優秀なメンバーにフラグを立て、彼らに今の職務経験からストレッチさせて管理職の役割を疑似的に担えるような職務設計をし、上司からフィードバックが得られる環境と仕組を整えてあげることが重要になる。組織課題を見出してその対策まで自ら提言させ実行支援するような育成プログラムをOff-JTとして実施することも有効である。

 

 最後に、職業選択の自由度が高まることで人材の流動性が高まっている昨今、多くの企業で持続的に成長できる仕組みを整えることは急務になっているといえる。今回は「若手」「管理職」といったスコープを絞った考察を行ったが、組織のメンバーの個々の熱量を高め、多様な価値観を組織の力に変えていくための仕組みづくりという観点においては、シニア再活性化や女性活躍推進、障がい者雇用推進などのテーマも同様の枠組みの中で考えていくことができるのではないだろうか。時代の変化に合わせて柔軟に、一方で揺れない軸をもって企業の経営課題とこれからも向き合っていきたいところである。

 

 

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