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2008.08.29

電子マネー戦国時代を制する鍵は?

 8月22日に日本銀行が興味深いレポートを発表した。「最近の電子マネーの動向について」と題されたそのレポートには、2007年度の電子マネーの動向が詳細に記載されている。他にも、8月だけで楽天リサーチ、第一生命経済研究所などが関連する調査レポートを公表し、大手新聞各紙もこぞって電子マネーを記事にしている。昨年に大手企業による新規電子マネー発行が相次いだこともあり、電子マネーの発行枚数や決裁金額は大きく上昇した。このような背景もあり、2007年は「電子マネー元年」と呼ばれるようになっている。

 2008年8月現在で普及している主要な電子マネーを整理すると、形態によりプリペイド型とポストペイ型の2つに大別される。
 プリペイド型の電子マネーは、使用する前に予め現金をチャージ(入金)する必要のある決済方法が「前払い式」のものを指し、法的には金券やプリペイドカード等と同様に扱われる。またそれぞれ独自のポイント制度を採用し、利用金額に応じて様々に活用できるポイントを付与している。事前審査や与信がないため、誰でも保有することができるというメリットがあるものの、チャージする場所が限られているというデメリットがある。
 ポストペイ型の電子マネーは、一部の例外を除いて利用した金額を後でまとめてクレジットカードの支払いで精算する「後払い式」のものを指す。そのため、小額決済専用のクレジットカードとも言えるだろう。利用限度額はクレジットカードの限度額に準じ、使用するためにチャージする必要もない。また支払いがクレジットカードと同一のため、原則として電子マネー独自のポイントはなく、クレジットカードのポイントに統合される。ただし、利用の前提としてクレジットカードの所有が必要になり、保有に一定の制限がある。
 プリペイド型、ポストペイ型それぞれの主要な電子マネーは次の通りで、これらはすべてソニーが開発した非接触型ICチップ通信技術Felicaを採用している。電子マネー開発元であるソニーを除くと、プリペイド型は運送事業者や小売事業者が発行主体になっており、ポストぺイ型はクレジットカード事業者が主な発行主体になっていることが見て取れる。
●プリペイド型(名称/発行主体/発行枚数/利用可能店舗・端末数) 2008年6月末時点
 ・Edy/ビットワレット株式会社(※ソニーが主要な株主)/4,100万枚/75,000店
 ・Suica/東日本旅客鉄道株式会社/2370万枚/50,700店(※PASMO・ICOCA加盟店含む SUICAのみは38,190店)
 ・ICOCA/西日本旅客鉄道株式会社/378万枚/45,240店(※SUICA加盟店含む ICOCAのみは7,050店)
 ・PASMO/株式会社パスモ(※鉄道11事業者・バス19事業者が主要な株主)/941万枚/44,069店(※SUICA加盟店含む PASMOのみは5,876店)
 ・nanaco/株式会社セブン&アイ・ホールディングス/601万枚/19,920店
 ・WAON/イオン株式会社/460万枚/25,000店
●ポストぺイ型(名称/発行主体/発行枚数/利用可能店舗・端末数) 2008年6月末時点
 ・iD/株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ/777万枚/34万台
 ・QUICPay/株式会社ジェーシービー/425万枚/14.3万台
 ・Smartplus/三菱UFJニコス株式会社/59万枚(VISA TOUCHとの合算)/49,000台(合算)
 ・VISA TOUCH/ビザ・インターナショナル/上記参照

 電子マネーの現状整理は以上になる。現代はこのように多くの電子マネーが乱立する、いわば「電子マネー戦国時代」だと言える。電子マネーは1,000円前後の小額決済に利用されることが多く、手数料の収入もクレジットカードなどと比べても薄いのに、なぜこれほどまでに多くの会社が電子マネー業界に参入するのだろうか。発行主体はどのような意図を持って電子マネーに参入したのかを整理すると、運送事業者と小売事業者、クレジットカード事業者のそれは大きく異なることがわかる。

●運送事業者の電子マネー参入意図
 ・運賃の支払簡素化やキセル防止を目的に作られたITインフラを活用したビジネスチャンスの模索
 運送事業者は磁気タイプの定期券に替わってICチップを用いてITインフラを構築した。それにともないICチップが内蔵され、電子マネーとしても利用できる定期券を多くの消費者が持ったことをビジネスチャンスを捉え、電子マネーに参入したと考えられる。すでにITインフラを構築してあるため、他の発行主体に比べて参入に際する負担が少ないことも理由になるだろう。

●小売事業者の電子マネー参入意図
 ・ポイントカードと連携した顧客の囲い込み
 ・より詳細な属性別の購買データの獲得
 小売事業者は従前から、顧客を自社に囲い込むことを目的としたポイントカードの導入など様々な施策に取り組んできた。それがICチップの登場により、ポイントカード機能を継承しながら決済の簡素化を可能にする電子マネーが作られ、囲い込みの施策が電子マネーシフトしていったと考えられる。また、電子マネーを用いることでユニーク顧客別の購買データを容易に収集できるようになったことも参入意図になる。

●クレジットカード事業者の電子マネー参入意図
 ・小額決済分野への展開
 昨今、クレジットカードはほとんどの決済場面で利用することができるが、1,000円前後の小額決済の際は手間がかかるため余り利用されてこなかった。そこへの展開に注力したことが、クレジットカード事業者が電子マネーに参入した意図であろう。

 このように、発行主体側には様々な思惑がある。すでに各発行主体の参入意図もある程度満たせているのかもしれない。では多数の電子マネーが乱立する戦国時代に、電子マネー発行主体は何を最終的な目標にしているのか。それは小額決済分野において電子マネーがリアルキャッシュ「円」を凌駕することで、発行主体自身の意図する方向に消費者をコントロールできる地位を獲得することだろう。リアルキャッシュ「円」は正当な通貨であるため「日本国内どこでも利用できる」というハード(インフラとしての機能)に関するサービスを消費者に完全に提供しているが、逆に通貨の匿名性がある故、ポイントサービスなどの「ソフトサービス」を提供することはできない。しかし電子マネーはハード・ソフト双方のサービスを提供できる可能性がある。仮に小額決済のほとんどで電子マネーを利用できるようになれば、現在の電子マネーが「円」に対して致命的に弱い部分のハードサービスの差は埋まり、ソフトサービスを提供できる分だけアドバンテージを得ることができる。
 この状態を作ることができれば、消費者は「円」を使うよりも電子マネーを使う方が多くの便益を得られることになり、その強力な優位性を用いることで電子マネー発行主体は消費者をある程度コントロールすることができるようになる。そうなれば発行主体はより収益を上げる仕組みを作ることができるだろう。この地位を獲得するために、電子マネー発行主体は戦国時代を戦っているのかもしれない。

 戦国時代を制して(電子マネーのディファクトスタンダードの立場を確立して)「円」への挑戦権を得るためには、まずは自らが発行する電子マネーが小額決済シーンの大半をカバーすることでハードサービスのレベルを「円」に近づけなければならない。そのためには決済に関わる消費者・サービス提供側双方に電子マネーを利用するメリットがなければならない。では発行主体は何をすればよいのだろうか。
 ヒントは皆さんの財布の中にあるはずだ。小売店・飲食店などのポイントカードや会員証で財布がパンパンに膨れ上がっている方は多いだろう。もし、小売店や飲食店が個別に発行しているポイントカードや会員証といったカード類を、1つの電子マネーで管理できるようになったらどうだろうか。消費者にとっては、今まで通りのポイントサービスを、1つの電子マネーで管理することができるメリットがある。一方でサービス提供側の小売店や飲食店などに対するメリットにも次のようなものがある。サービス提供側がポイントカードや会員証を発行する際には、個人情報を収集して管理する必要がある。個人情報への意識が高まった昨今、個人情報を保有すること自体が企業リスクだと考えられる。ただし電子マネーをカード類と置き換えることで、個人情報の管理責任を電子マネー発行主体にヘッジしつつ、従来通りにポイントサービスなどで消費者を囲い込みできるようになる。また、面倒な作業を嫌がったり個人情報の扱いに慎重になることでポイントカードや会員証の発行を避けていた顧客層をも、このポイントカードの電子マネー化により取り込める可能性が高まる。これは小売店や飲食店にとっても収益を上げるためには魅力的な点であろう。
 これは、電子マネーを利用する消費者が増えることで電子マネーが利用できる場所も増えるという正のスパイラルを生み出すことができることを示している。電子マネーはソフトサービスの向上により、ハードサービスをも向上させることができるはずだ。この部分で真っ先に優位性を発揮した発行主体が戦国時代を制することになるだろう。
 今後、電子マネーの開閉市場に対する影響度が上がることで、日本銀行をはじめ、様々なところからの電子マネーへの規制が入る可能性も多いに考えられる。しかしこの電子マネー戦後時代を経ることが、我々消費者にとってより便利なサービス登場の契機になることを期待したい。

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