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2009.04.10

エネルギービジネスに日本の活路を見出す

 ここ1~2年、地球温暖化や原油価格の高騰から、「エネルギービジネス」に関する各国の動向が一段と慌しくなっている。欧州では、デンマーク、ドイツ、イギリスで洋上風力発電の大型プロジェクトが立ち上がっている。特に英国では2010年までに再生可能なエネルギーで電力の10%をカバーし、その目玉に洋上風力発電を掲げ、2期に分けて開発権の入札に踏み切っている。また、サトウキビやトウモロコシなどから製造する「エタノール燃料」への関心が世界的に強まっており、ブラジルではエタノール燃料に対応した自動車の販売が急伸している。
 一方、アメリカのオバマ政権は「グリーン・ニューディール」と呼ばれる景気対策を打ち出し、地球温暖化防止に絡んだ投資により雇用を創出する考えを明確にした。この動きの中で、米ゼネラル・エレクトリック社は「スマート・グリッド」(賢い電力網)という技術を発表した。電力網をIT(情報技術)と融合し、電力の供給・利用の効率を格段に高める。この技術により、電力会社が電力需給を見て電力の売買価格を変え、需要家に電力の利用状況に関する情報(過去12ヶ月の利用電力量・週単位または日単位での検針値・他の小売事業者との価格比較・冷暖房コストの評価、等)を送ることもでき、需要家も一定の条件になれば買電をやめて売電するように自動設定したりもできる。議会も先に可決した景気対策法案でスマート・グリッドに110億ドルの予算を認めており、電力網の技術革新は急ピッチで進む可能性が大きい。

 この様な各国の動向の中で、日本政府は、2005年に打ち切った住宅向け太陽電池パネルの設置費用への補助金制度を今年に入って復活させた。また、現行の電力買い取り価格を2倍程度に引き上げる制度の導入を発表した。この電力買い取り制度と設置費用への補助金制度とを活用すれば、初期費用の回収期間が大幅に短縮し、普及拡大に繋がるものと考えられる。
 しかし、日本の再生可能エネルギーの普及目標量は先進各国のそれと比較しても少なく、長年世界一を保ってきた太陽光発電の年間導入量でもドイツに抜かれるなどしており、日本のエネルギー政策は、先進各国と比較しても、先見性、優位性があるとは言い難い。

 今後、この様な現状を踏まえ、我が国はエネルギービジネスをどの様に展開していくべきだろうか。まず、エネルギー市場の鍵を握る電力事業の変遷を見ておこう。

 日本では1995年に卸電力事業が自由化され、独立電気事業者が市場に参入した。小売市場は段階的に自由化され、2005年に全国を対象にした卸電力取引所が創設された。規制緩和により競争が促された結果、電気料金は自由化以降、20~30%低下したが、市場全体に占める新規参入者の供給割合は2%未満であり、新規参入者が極めて限定されている。その要因として、発電・送電・配電まで一貫した垂直統合体制をとる既存電力会社の強い競争力、卸電力料金の高さ、既存の電力会社が新規参入者に課す高額な送電(託送)料金などが挙げられる。
 こうした既存電力会社に有利な規制および市場構造が、エネルギー環境の革新の阻害要因になっている。例えば、先に取り上げた電力の買い取りに関して、先行しているドイツやイギリスにおいては、送電会社と供給会社に分割する事と電力の自由化が成功のポイントと言われている。この事から電力売買問題が絡むと市場の自由化の議論が再燃する懸念があり、電力業界には家庭からの買電に対する消極的な姿勢がある。また、電力供給は電力会社がすべからく監視し、制御するとの考えが支配的で、電力業界の発想の転換を妨げている。電力会社は太陽電池や風力発電など不安定な電源を敬遠する傾向があり、これを極力、電力系統につなげたくないという力学も働いている。既存の権益に関わるとみると、遠ざける体質はこれまでと何ら変わっていない事が伺い知れる。

 それでは、今後日本があるべき方向へ進むために、何に取組むべきだろうか。国として行うべき取り組みは3つある。
 一つは、エネルギーの効率化を追求しても、電力会社が損をしないビジネスの支援を行う“デカップリング(切り離し)プラス”という規制を導入する事である。この規制の考え方は、電力会社が電気をより多く売る事で利益を得て、投資した分を回収する方法が唯一無二の方法だという発想を打ち破る事だ。その為には、利益と販売増を“切り離す“必要がある。具体的には、年度末に監督機関が、電力会社の実際のエネルギー販売高と予想販売高を比較し、電力会社の節電プログラムによって顧客が節約できた金額を、独立した会計監査機関が算定する。販売高が予想外の下落を示した時には、監督機関が損失を肩代わりし、電力会社の節電プログラムによって顧客のコストが削減した分は報奨金として支払う。一方、電力会社の業務が杜撰であれば、罰金の対象となり、仮に販売高が予想外の伸びを示した時には、将来の値上げの幅を減らす形で電力会社はその余剰分を返済しなければならない。この仕組みによって、電力会社は、既存の権益を著しく減少させる事無く、エネルギー消費を増加させることよりもエネルギー生産性の改善に神経を遣う様になるだろう。
 いま一つは、エネルギー市場の構造改革である。その第一歩として、電力売買の仕組みを早期に構築する必要がある。これには先行事例がある。ドイツやスペインでは「フィードインタリフ」という電力買い取り制度があり、家庭において、太陽光で発電した電力を通常の約3倍の価格で国が買い取るのである。発電した電力が高く売れることが導入のモチベーションとなり、太陽光発電は急速に普及した。先に触れたが、日本も先行的に導入している欧州各国に倣い、2010年度を目処に日本版「フィードインタリフ」導入を発表した。
 太陽光発電も補助金を出しているうちは普及が進むだろうが、電力売買の仕組みを抜本的に変えないと補助金を止めた途端にインセンティブが働かなくなり、停滞するだろう。この事は、2000年代前半に230億円規模の補助金が出た時はシステムの導入件数も右肩上がりだったが、補助金が打ち切られた06、07年度には前年割れが続いた事からも実証できる。
 最後の一つは、炭素税の導入である。導入の目的は、化石燃料の価格を税により引き上げることにより需要を抑え、その税収を環境対策に利用することにより、地球温暖化の原因である二酸化炭素排出量を抑えることである。ドイツでは導入時に税収の 9割を雇用にかかる人件費抑制に充てることで税制中立に配慮しつつ雇用環境改善・失業率抑制も実現する工夫がされている。なお、現在環境省が提案している、得られた税金を地球温暖化対策に用いる(特定財源とする)方法もあるが、ドイツの例も参考にすれば、現在の日本の雇用対策にも上手く適用できるものと考えられる。
 炭素税に関しては、これまで政府内で導入の是非について検討が行われたが、産業界の強い反対や原油価格の高騰により、エネルギー価格を更に上昇させるような対策が忌避されたことや、小泉内閣によって「小さな政府」が標榜されていたことにより、増税に対する合意が得られにくいといった状況が加わり、導入が見送られた経緯がある。しかし、最近の欧州やアメリカの動向からも分かる様に、国家ぐるみでエネルギービジネスへ取り組む事が、世界的に見ても近い将来を見据えた当然の国家戦略であり、日本がこれらの動きに逆行する事は、世界におけるポジショニングを更に失墜させる事に繋がるだろう。また、産業界においても、アメリカのビッグスリーの凋落が示すように、既存のエネルギー資源、特に石油の消費を前提とした製品・サービスは、市場で廃れ行く傾向は顕著になっており、もはやエネルギービジネスに対して背中を向ける様な動きは、自らの首を絞める事になるのは自明の理であろう。

 日本は世界の中でもエネルギー効率に関する高い技術を持っている国であると言えるだろう。しかし、エネルギー資源の多くを外国に依存している国として、エネルギー資源の入手が為替レートの変動やエネルギー輸出国の政治情勢に左右されるため、電力供給に当たっての非化石燃料の利用増加や、再生可能エネルギーの充実を一段と進める必要がある。このためには、現在のエネルギー効率や環境に関連する高い技術という強みを積極的に駆使する上で、先に挙げた様な国家政策を強力に推し進めていく必要があるだろう。
 日本は従来、アメリカを未来の成功モデルと見なし「追いつけ追い越せ」の精神で成長してきたが、エネルギー効率や環境分野において現時点で先進技術を持っている日本が、新たな規制や税制の導入を通じて市場の構造改革を行う事で、未来の成功モデルになれる可能性がある。
 これまで以上に官民が一体となって「世界一エネルギー効率の良い国」を目指す事で、我が国の真の発展に繋げられるのではないだろうか。


 

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