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多様化した社員を「受容」する

 昨今、終身雇用の崩壊、成果主義の導入、人材の流動化・・等、一昔前までには想像が出来なかった様な規模やスピード感で労働環境が変化している。これまで我々が持っていた会社や仕事に対する考え方や常識を、定期的に見直していかなければ世の中から取り残されてしまう、そんな感覚を持っている人が多いのではないだろうか。
 中でもとりわけ大きな変化として、社内で働く人々の多様化がある。多くの企業では、管理職に対してダイバーシティプログラムと題し、以前よりも多様化した社員(部下)に対してどの様に対応すべきか、その考え方と方法論を伝えている。しかし一方で、多様化した社員への対応が不十分で組織運営上、不具合が出ているケースも散見される。
 以降では、2つの事例を通じて多様化した社員が組織運営に与える影響を検証し、管理者が多様化した社員に如何に対峙すべきかを明らかにする。

 まず、事務系の職場の例を取り上げてみる。一昔前までは、一つの職場内に総合職・一般職(事務職)以外の社員は殆どいなかった。総合職・一般職共に学校を卒業して入社し、実務を通じて社内の文化に触れ、長い年月を経て同質的な価値観を形成する事が一般的だった。そんな両者の間に会社に対する大きな意識(ロイヤリティー、企業体質への認識、等)の乖離は想像しがたい。一方、昨今では人件費の変動費化を目的に、多くの企業が契約社員やパート社員を雇っており、先に挙げた総合職・一般職に加え、派遣社員やパート社員も職場の主要な構成人員となった。この場合、彼らは長い年月をかけて社内の文化に触れているわけでもなく、また雇用期間が有期であるため、属している会社や従事している仕事を短期的に捉えている。ただ、この事実を管理職が十分に理解し考慮する事無く、派遣社員やパート社員に対して業務指示を行い、コンフリクトを起している職場もある。例えば、業務時間内に終わるはずもない業務をアサインし、それに抵抗する派遣社員に対して「会社のことを全く考えていない」「個人主義もはなはだしい」と一蹴し、職場にいづらくする様な場合である。この様なやり取りが積み重なり、やがては派遣社員・パート社員が会社を訴えるケースもある。
 一方、工場系の職場はどうだろうか。先の例と同様に一昔前までは、正社員が主要な構成人員であったが、最近では期間工、派遣社員、パート社員はもちろん、その中に外国人労働者もおり、現場の構成人員は一層多様化している。また、以前は「鬼軍曹」と呼ばれる様な威厳のある現場監督がおり、工員の人心を掌握し統率するケースが多かったが、団塊の世代交代を機に若手社員を抜擢しその任を与えている場合も多い。とある工場関係者は「新旧の現場監督の一番の違いは、コミュニケーションの質だと思う。昔の現場監督は、業務に直接関係ない工員の身の上話の相談にものっていた。今の若手(の現場監督)は業務に関係のないコミュニケーションは取らないので、昔に比べれば監督と工員の関係は希薄化している。」と話している。この様な状況の中で、現場監督と工員との相互理解が進まず、コミュニケーションギャップが生まれ、作業工程において人為的ミスが多発し製品の品質問題にまで発展しているケースもある。

 以上2つの事例より、職場内で同質的な背景や職業観を有する人々が協働する構図から、様々な背景や職業観を有する人々が協働する構図に変わってきた事が分かる。これまで終身雇用の名の下に、同質的な価値観を持つ社員同士が職場内に「一蓮托生」的な風土を根付かせていたため、多様化した社員群が生まれる事は無かった。しかし、社員の多様化が常識になった今、管理者は改めて社員に対峙する際の考え方を問い直す必要がある。その際のポイントを「受容」する事と考える。
 人を「受容」するためにはその人の言動だけではなく、人となりに興味を持ち理解する必要がある。しかし、これに反してよくやってしまいがちな管理者の3つの行動がある。
 一つは、自分の価値観を無意識に押し付けてしまう例である。例えば、自身の成功体験は他者にも絶対に当てはまるという想いから相手の状態を省みず指導するが、指導されている側は自身とのギャップを感じモチベーションが下がってしまう。
 いま一つは、上辺だけのコミュニケーションに終始する例である。先に挙げた工場系の職場で起きていた現象がまさにこれにあたる。一方事務系の職場においても、今では当たり前になったメール上でのコミュニケーションの中で、管理者と社員間で深いレベルの情報交換が行われる事は想像しがたい。
 最後の一つは、社員の言動より早期にその社員へのイメージを固定化してしまう事である。例えば、管理者がある社員の言動を、既にその社員に対する固定化されたイメージの範囲内で捉え、その是非を指摘すると、指摘を受けた社員は言動の背景にある自分の気持ちや考えを分かってもらえていないという感覚になり、管理者からの指摘を受け入れずモチベーションを下げてしまう。

 では、この様な行動を防ぐにはどうすべきか。以下の3つのステップを行う事で社員を「受容」する事が重要である。
 1つ目のステップは、社員のこれまでの環境や今置かれている環境に興味を持ち、理解する事である。
 2つ目のステップは、社員のものの見方や考え方に興味を持ち、理解する事である。
 3つ目のステップは、これまでの環境や今置かれている環境、ものの見方や考え方から、社員の言動を捉え直す事である。
 この3つのステップを踏むだけで、社員の見え方は大きく変わってくる。人が行う言動の背景には、これまでの環境や現在置かれている環境から影響を受けたものの見方・考え方が存在する。この様に人の過去から現在に至るまでの文脈に興味を持ち、理解する事が人を「受容」する上で重要な事である。
 終身雇用・年功序列が企業の常識だった時代、多くの職場には家族的な雰囲気が自然に創られ、管理者と社員が先に挙げた3つのステップを行いやすい環境にあったが、一つの職場に多様な価値観・モチベーションの社員が存在する現在では、管理者が意識的にその環境を作らなければならない。
 社員は管理者に「受容」されると「安心感」が満たされ、自分自身も管理者を「受容」しようとする。そして社員から「受容」された管理者も「安心感」が満たされ、より一層社員を「受容」しようとする。この「受容」の連鎖が組織を活性化させていくのである。
 多忙な管理者が、社員を「受容」するために自身の労力を使う事は短期的には負担感があるかもしれない。しかし、長い目で見れば管理者と信頼関係を築いた社員は管理者のよきフォロワーになり、必ず管理者に想像以上の恩恵を返してくれるはずである。私のこれまでのビジネス経験の中でも、「この人(経営者や管理者)のためなら、ガムシャラに頑張ろう!」と思っている人間が、とてつもないパフォーマンスを出すケースに幾度となく遭遇してきた。

 これまで見てきた様に、現在の労働環境において多様化した社員を管理者が「受容」する事の重要性が高まっている。一方、現場の管理者以上に、全社員の管理責任がある経営者もより一層高いレベルの「受容」が求められる。とある心理学者が「自己理解の限界が他者理解の限界である」と言っていた。具体的には人間として自分の事を理解している以上に他人の事は理解できないという事らしい。この言葉を教訓に、経営者、管理者自身の周囲に対する「受容」のレベルを問い直して見てはいかがだろうか。
 

ジェミニ

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