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組織内に「ケミストリー」を発生させよ

「チームケミストリー」という言葉がスポーツ界には存在する。「ケミストリー」は直訳すれば「化学反応」だが、「人間同士の相性・親和性」という意味もあり、スポーツにおける「チームケミストリー」は「チームメイト同士の親和性」と定義できる。まるで分子と分子が融合して化学反応を起こすかのように、チーム内に所属する選手同士がうまく連携し合い、チームとして高い能力を発揮して継続的に成果を上げている状態を「チームケミストリーが発生している」と表現される。このチームケミストリーは、所属する選手の能力が高ければ発生するものではない。例えば、日本のプロ野球における読売巨人軍は、各チームで中心的な選手を獲得するものの、選手間の連携やチームとしての融合が図られずに優勝できなかったこともあった。同じようなケースで、最近のニュースで話題になったスペインのサッカーチーム、レアル・マドリードは、数年前、世界各国のスーパースターを集め「銀河系軍団」と呼ばれるほど各選手の知名度と実力で他のサッカーチームを圧倒していた。だが、各選手がエース級であるため個人プレーに走り連携が取れなかったり、スター選手がベンチを温める機会が多くなり不満が発生するなどの問題が起こっていたため、「チームケミストリー」を十分に生み出せていなかった。逆に、選手全員が平凡な能力であったとしても、チームケミストリーを発生させ、勝利を勝ち取るチームもある。アメリカのプロバスケットボールでは、スター選手が不在で、勝率が低くギリギリのラインで決勝トーナメントに進みながらも優勝したチームがあった。サッカーワールドカップでも、サッカー後進地域とされるアジア・アフリカのチームが強豪国を倒す試合が少なからず見られる。まさに、チームケミストリーが強豪チームのそれを上回った結果と言えよう。

では「チームケミストリー」が発生する条件は一体何であろうか。まず、チームに所属する「メンバーの能力」がチームに必要とされるものであることは言うまでもない。加えて、選手同士が「相互理解」した上で「密なコミュニケーション」を取ることもが重要となる。高い能力の選手同士が相互に理解している場合、コミュニケーション形態が相手のしぐさや表情のみで言葉を交わさなくても相互に通じ合い連係プレーを図ることができる。その状態が続くことで「素晴らしいプレーを見せる」「得点する」「試合に勝つ」といった「チームケミストリー」の具現化した成果が生まれるのだ。

ところで、この「チームケミストリー」は、ビジネスにおいても起こりうることは容易に想像できる。企業を細分化していけば部門や課、担当といった小チームとなり、プロジェクト・ベースの仕事に従事する人たちにとってはプロジェクトという「チーム」に所属していることになる。「チーム」を「組織」に置き換えれば、企業・組織内で起こるチームケミストリーを「組織ケミストリー」と言い換えられよう。「組織ケミストリー」はチームケミストリーと同様、個人個人の能力が高ければ発生させることができるわけではない。組織に属する人達がそれぞれの役割に基づいて業務を全うしつつも、個人同士が互いの状況や業務を理解し、十分にコミュニケーションを図ることで組織内のいたるところにケミストリーが発生するのだ。ケミストリーは、業務改善や新商品開発、新規ビジネスの立上げ、社員の成長や組織改革、風土改革等様々な形で具現化され、結果的に業績向上に結実させることができるのである。

しかし、グローバル競争が激化し、生き残りをかけて企業・組織間連携やM&Aを行う企業が多くなってきている中、化学反応が起こらなかったり反作用してしまったケースは枚挙にいとまがない。業績低迷の原因を昨今の世界規模の景気低迷に求めることが往々にしてあるが、少なからず高い業績を上げている企業が存在することを考えると、各組織が役割・責務を追求するあまり協力関係が築けずタコつぼ化してしまったり、M&Aを行った企業であれば統合後の組織融合がうまくいかないといった内部要因が大きく影響していると想定できる。では、組織の中で継続的に「ケミストリー」を発生させるためにはどうすればよいのだろうか。

多くの企業が組織ケミストリーを発生させることができていない中で、少なからず成功している企業もある。例えば、世界のインターネットサービス最大手Googleでは、社員個人に対して能力だけでなく「自律性」や「協調性」も求めている。また、流動的かつ役割が固定化しないようなフラットな組織形態にしたり、グローバルレベルでの情報共有や社内コミュニティの形成等のインフラや仕掛けがある。これらは個人と個人を連携・融合させる、つまり組織ケミストリーを発生させるための要件と言える。国内の企業でも、日本のインターネット広告のパイオニアであるサイバーエージェントが組織ケミストリーを発生させる要件を兼ね備えている。同社は、役員や事業責任者等が集まって組織の風土を変えるためのチームを形成し、様々な仕組みの検討を行ってきた。その結果、社内ベンチャー立上げや人材育成を支援し、また個人の成長のために異動を促進するなどの仕組みも導入している。また、経営層をはじめとして社員個人がイントラネット上で自身についてブログによる情報公開を行ったり、表彰式、飲み会等組織の垣根を超えた交流も図られている。そして現在では、人材の成長とともに事業が会社化して子会社となり、同社はグループ化するまで成長している。

上記の事例から、「チーム」という数人から数十人レベルの規模から「組織」という数百人、数千人、数万人という規模にまでなった場合、ケミストリー醸成のための「インフラ」や「仕掛け」が必要となることがわかる。そしてその「インフラ」や「仕掛け」に意思を込めるのが「経営層」である。経営者は、社員が能力を十分に発揮でき、個人間・組織間の相互理解・コミュニケーションが促進され、組織的な融合が図られることによって自社の業績向上・成果創出に結実させることができる組織ケミストリーを巻き起こす必要がある。その組織ケミストリーを自助的に発生させるためのインフラ作りや仕掛けづくりを積極的に行っていくべきではないだろうか。

先日のキリンとサントリーの経営統合は非常に大きな話題となった。食品業界におけるアジアのリーディング・カンパニーとなり、世界の大手と比肩する企業グループを目指すとしている。また、この二社は「組織の成り立ちや風土が違うことから連携・融合が難しいのではないか?」といった各方面からの意見・批判が多い。しかし私は、この二社が統合される過程や統合後に、経営陣が主体となって「インフラづくり」と「仕掛けづくり」を行うべきと考える。それによって、統合されたメガ・カンパニーが単なる組織の集まりではなく、「組織ケミストリー」が社内の至る所で巻き起こり、新たな成果が生み出され、「アジアのリーディング・カンパニー、ひいては世界のリーディング・カンパニーとなることを期待したい。

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