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ソーシャル・ネットワーク時代が後押しする「情報の信頼性」の限度

 SNS(交流サイト)最大手のフェースブックのアクティブ会員数が、201011月現在で5.5憶人を超えた。特筆すべきは、この数字は、単なる会員数ではなく、あくまで「アクティブ」会員数であるという点だ。米調査会社「エクスペリアンヒットワイズ」よると、20101月~11月の米国サイト訪問者数シェアは、Googleが「7.19%(前年同期比0.49ポイント増)」に対し、フェースブックは「8.93%(同4.67ポイント増)」であり、フェースブックが、検索最大手のGoogleを抜き、首位に立ったことがわかった。また、現在両社のシェアは僅差だが、その伸び率からフェースブックは今後もシェア拡大が予測され、2012年にも創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が目標とする会員数10憶人の達成が見込まれる。

こういったSNSの著しい成長と共に、最も着目されているものの一つは、「消費者のモノ・サービスを購入する際の消費行動プロセス」である。

インターネットが、主に「検索エンジン」として利用されていた時代では、テレビCMや雑誌等を通じて、興味を持ったモノ・サービスについて、自ら“Search”して情報を取りにいき、商品購入を決定した後は、商品に対するプレビューやブログを書いたりする事で、その商品の情報を他者と“Share”するという行動が頻繁に見られた。こういった行動プロセスは、電通が提唱した「AISAS:Attention(注意), Interest(興味・関心), Search(検索),Action(購買), Share(共有)」により世の常識と化していったが、今の時代は「この商品を購入して良かった。」「愛用しています!」といったソーシャルフレンドからの「口コミ」そのものが、潜在的に「なんとなく欲しかった商品」への気づきを促し、消費者の強力な購買動機を形成するうえで不可欠なものになってきているのである。(一部では、この変化を、VISAS:Viral(口コミ), Influence(影響),Sympathy(共感) ,Action(行動) , Share(共有)と呼んでいる。)

これらソーシャルフレンドによる「口コミ」が与える影響の範囲は、主に以下2点を背景にして、今後とも、より私たちの日常生活に密着した形で拡大して行くことが予想される。

まず、1点目は、「ソーシャルフレンドと情報を共有するためのインフラ作りが進んでいること」だ。既にフェースブックでは、同社株主でGoogleがライバル視するマイクロソフトと組み、着々と知人の行動や好みを基に必要な情報をたぐり寄せる仕組み作りを進めている。昨年10月には、マイクロソフトの検索サービス「ビング」で、行きたいレストランや、観たい映画の評価を調べると、フェースブック上のソーシャルフレンドの評価を参照できるサービスを始めることを発表している。元々SNSは、人脈構築を目的としたユーザーの拡大を背景に世に浸透してきたが、マイクロソフトで検索事業を率いるチー・ルー(陸奇)氏は、『知人や信頼する人が持つ情報を簡単に調べられれば、より便利』になり、検索エンジンを通じて情報を検索するよりも『検索がこれまでより個人に適したものになる』と公に説明し、“ソーシャルフレンド発“のより日常に密着した情報共有の仕組みを強化することで、ソーシャルフレンドとの接点を増やし、ソーシャルフレンド同士の関係強化を図っている。

また、2点目は、情報爆発の時代を目前に上記のような仕組みが整うことで、「自身の欲しい情報や興味・関心事に辿り着くまでの時間が、大幅に節約できること」である。インターネットが、主に検索エンジンとして利用されていた時代では、自身が欲しい情報や興味・関心事は、Google等の検索エンジンで検索した結果から、自身で必要な情報を取捨選択してきた。しかし、米調査会社IDCによると、「世界のデジタル化された情報の総量は、2020年には2009年の44倍に急増する」と予測されており、自分が求める情報を迅速に検索し、精査することは、そう容易ではなくなる。20073月時点で総務省が発表した調査結果でも、既に「人が選択できる情報(選択可能情報量)」のうち、「人がこなせる情報(消費可能情報量)」は、僅か「4%」にすぎないということがわかっており、今後益々「人が選択できる情報」と「人がこなせる情報」の格差は広がっていくと見られている。そうなれば、マイクロソフトのチー・ルー(陸奇)氏が言うような『これまでより個人に適した』検索結果を閲覧できるシステムに対し、より多くの人が意識的、もしくは無意識的であっても、少なからず「便利さ」を実感するようになるだろう。

ここで、上記で挙げた2点の前提にあるものとして、改めて確認しておくべきはソーシャルフレンドに対する「信頼性」である。

マイクロソフトは、チー・ルー(陸奇)氏の説明にもある通り、「ソーシャルフレンド」から発信された情報であれば、Google等の検索エンジンを通じて情報を検索するよりも、効率的に「信頼」できる情報が得られると同時に、人脈形成が進むという確信から、ソーシャルフレンドと情報を共有するためのインフラ作りを進めている。

一方、ユーザーである私たちも、「口コミ」に対してある程度の「信頼性」を前提においているからこそ、それらを参照することで、本来かかるはずの時間より短い時間で「自身の欲しい情報に辿り着いた」と認識し、満足しているケースも少なくないはずだ。

例えば、フェースブックの機能の一つLikeボタン(ユーザーが関心を持ったウェブサイト上の情報をフェースブックのマイページに登録するボタン)は、もはやあらゆるサイト上の情報に付加されており、これまで何人のユーザーがボタンをクリックし、そのうち「誰が」ボタンを押しているのかを知ることができ、「あの人がお勧めしているなら間違いない」といった信頼感から、消費者の行動を一層後押しするようになっている。

現在日本では、匿名性の高い「ミクシィ」がシェアを占めている。しかし、私たちユーザーが「ソーシャルフレンドから発信される情報は、信頼性が高い」という認識を高め、そのメリットを享受すればするほど、実名での会員登録を原則としたコミュニケーション・インフラが台頭してくることが想定される。既に、米国では、対人口比で45%、対ネット人口比では70%弱が、フェースブックを日常的に利用しており、日本においても認知度が上がりさえすれば、少なくても今以上の登録者の増加は見込まれる。既に、先日公開されたマーク・ザッカーバーグ氏らを描いたドラマ映画「ソーシャル・ネットワーク」を皮切りに認知度は急上昇しているとも言え、今後は、日本においても米国と大差ない形で、フェースブック利用者が拡大することもあり得る。スポンサーである企業にとっても、実名を前提とした登録者データと行動履歴をリンクさせ、ターゲットを絞り込んでマーケティングが施せるサイトへ広告費を投入することは、より魅力的であり、実名登録を前提としたSNSの普及を促すと考えられる。

しかし、上記を背景に、私たちユーザーがソーシャルフレンドに対する「信頼性」への認識を高めれば高めるほど、私たちの「主体性」が、著しく低下する危険性があることを同時に認識しておく必要がある。

米国では、「朝からパソコンを起動し、外出先ではスマートフォンでやりとりするデジタルライフ」を送り、「日常生活のほぼ全てが(ネット上の)友達の輪の中で完結する」、という生活を送る人が増えているという。このようなネットワークの中で築かれた「密な友達」であれば、確かにその友達は、「信頼」できるかもしれない。しかし、その信頼する友達から発信された情報の真偽とその意味については、当然に一度自身の中で咀嚼して捉え直す必要があることには、変わりない。特に「密な友達」であれば、その友達から発信される情報が、自身の価値観,趣味・志向に似通っていることも考えられ、「自身とは異質な考え」を意識的に取り入れ、目の前にある情報を俯瞰的にみる必要が出てくる。それにも関わらず、相手への信頼感が、情報に対する信頼感へと変換され、情報を俯瞰的に見るために、積極的に他の情報を取りにいくことを怠ってしまう危険性が考えられる。

また、わからないことは、いつでも「友達」が、教えてくれる、判断に迷えば、「友達」の言っている意見を判断軸にして決定する、そんなことが日常化すれば、主体的に物事を判断する機会は激減し、人生における重要な選択(仕事の選択、結婚相手の選択、等々)でさえ、「友達」が何か “信頼できる情報”を提供してくれるのを「待つ」ようになるだろう。これまでは、少なくても自分の価値観や趣味・志向に沿って行動を起こし、情報を取捨選択してきた。しかし、今後は、自分が何をしたいのか(どう生きたいのか)、という全ての行動の起点(理由・根拠)そのものが「友達」からの何らの働きかけに基づくようになる可能性がある。そうなれば、自身の行動のほとんどが、いつの間にか、「友達」の価値観に基づいてなされる、という主体性が完全に失われた個が激増する時代を迎える危険性すらある。

「ソーシャルフレンド」と繋がりを持つメリットは、確かに大きい。しかし、そのメリットを享受すればするほど、前提にある「信頼性の限度」をつい忘れがちになる。往々にして、本当に価値のある情報ほど、表には出てきにくいものだ。時代の大きな節目だからこそ、目の前の情報の真偽とその意味を確かめ、自身の「意志」を持ったうえで行動に移すことの必要性を再度意識しておくと良いだろう。


 

マカロン

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