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膨らんだ風船はひっくり返せるか?

 「近い将来、すべての人が現実世界と並行するデジタルなアイデンティティをもつようになる。アバターに暗号資産のウォレット、デジタルグッズが当たり前のものになるはず。準備はできてる?」

 

 2022年1月11日の午後12時24分、Twitterで290万人のフォロワーを抱える俳優で起業家のリース・ウィザースプーンが上記内容のツイートをしていた。Facebookが社名をメタに変えたこともまだ記憶に新しいが、これからの世界はメタバースとよばれる仮想空間(世界)との共存が当たり前になると昨今いわれている。

 メタバースの語源は米SF作家のニール・スティーブンソン氏が小説「スノウ・クラッシュ」で1992年に描いたものがモチーフと言われ、「超越」を意味する「メタ」とユニバース(世界)の「バース」を結びつけた造語である。メタバースの特徴は諸説あるが、多くのメタバース関連記事では投資家Matthew Ball氏が提唱している下記の考えが引用される。

 

1: 永続的である(Persistent)

2: 同時性&ライブ性(Synchronous and live)

3: 同時参加人数無制限(No cap to concurrent participants)

4: 参加者によるモノの制作・保有・投資・売買などが可能(Fully functioning economy)

5: デジタルと物理、両方の世界にまたがる体験(Both digital & physical worlds)

6: 今までにない相互運用性(Unprecedented interoperability)

7: 数多くの企業/個人がコンテンツや体験を生み出す(Wide range of contributors)

 

 では、ウィザースプーン氏のツイートではないが、皆さんの中でメタバースと共存する世界というのは想像できる世界であろうか。まだなかなか想像できない世界だという人が多いのではないだろうか。

 

 さて、この仮想世界との共存についてイメージを膨らませていくために、いきなり話を大きく変えるが、数学の話に頭を切り替えてみたい。(なぜここで数学の話をするのかは、最後に改めて述べる。)

 

 数学というのは、苦手な人はなぜあのような学問が存在するのかなかなか理解することは難しい。(私自身学生時代は塾で教えていた経験があるが、)「現実には全く使えないじゃないか!」というぼやきも数学が嫌いな中高生からはよく聞こえてくる。しかしながら、数学という学問が発展を遂げていなければ、今の科学全般はここまで進化を遂げられておらず、ひいては今の豊かな暮らしが存在していないであろうこともまた事実である。(物理学の有名な理論が数式であらわされることを知っている方も多いだろう)数学は“数”字の“学”問であるが、なぜ数字を使う必要があったのか。それは、どのような難解な事象もシンプルに解きほぐすことが必要であり、数字はシンプルさと抽象さという意味で何よりも突出したツールだからといえる。例えば、数学において有名なユークリッド幾何学の世界は、「点と点を結ぶ直線はただ一つしか存在しない」という公理(≒証明を必要としない前提)に基づいて構築されている。この公理(前提)は別に「椅子と椅子を結ぶ机はただ一つしか存在しない」でも良かったし、もしその公理(前提)から紡ぎだされる学問があればそれは“机学”となっていたかもしれない。ただシンプルかつ抽象度を極限まで高めた“点”や“線”というもの(正確には無定義用語というが)で記述されることで、あらゆる複雑な事象も表現できる世界観が構築されているのである。

 さて、タイトルで「膨らんだ風船はひっくり返せるか?」と投げかけた。もちろん割ることも空気を抜くこともなくそのままの状態で表裏をひっくり返すことができるかという問いである。一種の思考訓練のような問いであるが、街角でこの質問をすれば、大勢が“No”というだろう。このような現実はなかなか想像できない。(メタバースとの共存する世界が想像できないことと似ている。)しかし、数学に熟達している学者などは“Yes”(もしくは“Yesとなりうる”)と答える。なぜかといえば、二次元平面で住んでいる生き物(例えばアリ)を仮定すると、彼らに「目の前の地面に伏せてあるプラスチック製の下敷きをひっくり返すことができるか?」と問えばおそらく“No”と答えるだろう。しかし三次元に住んでいる我々からすれば二次元(地面)から取り上げて裏返し、また二次元(地面)に戻せばいいだけなので、“Yes”となる。風船の場合もそれと同じで、次元を一つ上げてひっくり返し、次元を元に戻すという工程を踏めば、膨らんだままひっくり返せるはずだと考えるからである。(4次元の住人からすれば当たり前のことかもしれない)このように、具体的な事象を次元を変えて抽象化させ、抽象化された世界で答えを出し、現実に具体化して戻すというのは数学が現実世界のあらゆる問題を解きほぐすのに利用される理由の大きな一つである。私は数学の魅力をここに感じる。

 

 冒頭に、メタバースと共存する世界は想像できるだろうか、という問いかけをした。想像できない世界にこそ可能性が開けるという意味では、先に述べた風船の話と似ているのではないだろうか。このような世界が共存する未来は非常に興味深い。たとえて言うならば、風船をそのまま割らずにひっくり返して現実世界に戻せるような世界が実際に現実化するということだと思う。これにより、世の中に数多ある複雑な社会課題は、数学的見地を活用すれば抽象化されたシンプルな世界としてのメタバースに一度もっていき、そこで解決策を見出して現実世界に戻すことでよりシンプルにスピーディに解決できるような世の中になるのではないだろうか。

 例えば、いままさに起きているウクライナショック。メタバースと共存する世界が当たり前になっていれば、現実世界で戦争をし、被害者を出すようなことなく、メタバース上でAIがそれぞれの意向を踏まえた最適解をシミュレーションし(さながら戦略シミュレーションゲームのようではあるが)、その結果に基づいて現実世界で会談が行われスピーディに収束に向かうような世界になるのではないだろうか。(そもそもメタバースと共存する世界では今ある国のような概念が薄まり、国同士の争いの価値観も大きく相転移しているかもしれないが・・・)

 いままで解決されてこなかったような社会課題はステークホルダーの種類やそれぞれの意向など複雑な糸が絡まりあったような課題が多い。そのような課題こそ、膨らんだ風船をひっくり返すがごとく、抽象化された世界で問題をシンプル化し、解決策を導きながら現実に落とし込むことでより良い未来に向けて加速させられるような役割をメタバースが担ってくれることが期待される。そこにはいろいろなビジネスのチャンスもあると思うが、何よりもすべての人が心も身体も豊かに平和になるきっかけとしてメタバースの登場を歓迎したいし、向き合っていきたいところだ。

 

W.R.I.P

 

参考:https://www.arts-crafts.co.jp/post-12632/

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