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至高の料理からの学び

 先日、昔から訪れたかったフランス料理のカンテサンス(Quintessence)に伺う機会があった。ミシュランの3つ星を15年連続で獲得した日本を代表するレストランである。

 

 オーナーシェフの岸田氏の料理は、お客様に究極に美味しいものを提供したいという純粋な思いが伝わる芸術的なフルコースであった。岸田氏の料理に対する思いを感じながら至高の料理に舌鼓を打つ時間は、いつもと違う名状しがたい多幸感で満たされた体験であった。

 

 ところで、なぜこんなに多幸感を覚えたのであろうか。この時のことを振り返ってみると、普段と明らかに違うことに気が付いた。それは、振る舞われた料理に対する自身の純粋な興味と岸田氏の料理に対する純真さが呼応したということであった。

 

 岸田氏がどういう思いでこの料理を作っているのか、なぜこの食材を使ったのか、どのくらい試行錯誤して生まれたものなのか、など思いを巡らせたことで、この芸術作品とも呼べる料理の素晴らしさが自身の中で増幅したと思えたのだ。つまり、“料理の見えないコンテキストを読み取ろうとした”ことが、料理のおいしさを最大限に高めたのではないか。

 

 別の事例からも同様のことを考えてみた。近年食品はトレーサビリティの観点で生産者の見える化が主流になっている。実は、生産者の見える化は、食品廃棄ロスの削減に有効な手段であるという。生産者の思いを無碍にしたくないという消費者の気持ちが醸成されて、消費者が廃棄をためらうのだそうだ。

 

 消費者は、生産者を知ることで、生産者の商品に対する思いを読み取りやすくなる。これは、消費者が商品を消費する際に、“商品の見えないコンテキストを読み取る“ことで、生産者の思いに呼応したと言えるのではないだろうか。

 

 要するに、多幸感を覚えるには、“見えないものを見ようとすること”、つまり提供されるものの背景や提供する人の思いを想像して共感するといった、追体験が必要であると考えた。

 

 しかし、まだ何かが足りないような気がする。そこで、再度振り返ってみたところ、もう一つ重要な視点を思い出した。それは、美味しい料理を味わえているという境遇への感謝や料理を作ってくれた岸田氏への感謝、そして予約困難なお店の席を手配しこの貴重な体験を提供してくれた先輩への感謝の念を抱きながら食事をしていたことである。

 

 トレーサビリティの事例でもまた、消費者に生産者が愛情を持って商品を育ててくれたことへの感謝の気持ちが生まれていたのであろう。

 

 ポイントは、“見えないものを見ようとする”過程で“感謝の気持ち”が醸成されることで、自身の体験をより豊かなものに引き上げたということだ。例えば、自分の好きな漫画を見つけた際に、漫画家が伝えたいメッセージは何か、どのようなきっかけでキャラクターを生み出したのかなどを想像していくうちに、漫画家に対するリスペクトや感謝、その漫画に出会えた喜びが生まれることで、漫画の楽しさが増幅するといった具合だ。

 

 一方、追体験以外にも、“見えないものが見えること”や“感謝の気持ち”の醸成につながることがある。例えば、新型コロナウイルスによって、会いたい人に会うという日常が当たり前ではなくなってしまった中で、“当たり前ではないこと”を意識して会うと、喜びをより実感しやすくなる。

 

 また、ロシアとウクライナの戦争においても、普段意識していなかった平和の大切さを見つめ直すことで、日常生活を送れることのありがたさを噛み締めながら、一日一々を大切に生きようとする前向きな気持ちが生まれることもある。

 

 このような事例を踏まえると、“見えないものを見ようとすること(追体験)”で“感謝の気持ち”が生まれて自身の体験をより豊かにすることもあれば、何かのきっかけで“見えないものが見える”ようになることで“感謝の気持ち”が生まれ、自身の体験をより豊かにすることもある。

 

 いづれにしても、豊かな体験をして多幸感を覚えるには、“見えないものを見ること”と“感謝すること”の2つの要素が重要であり、あらゆるものに対して、双方を意識的に実践していくことが、生活に彩りと活力を与えてくれるきっかけになると言えそうだ。

 

 実業家の故中村天風は、「ごはん一粒を口にするまでに、お米を作る人、運ぶ人、売る人、調理する人が関わっていることに思いを馳せると、自然と心から“いただきます”と感謝の気持ちが出てくるはずだ。」と説いている。

 

また、「感謝するに値するものがないのではない。感謝するに値するものを、気が付かないでいるのだ。」とも言っている。中村氏は、まさに“見えないものを見ること”と“感謝すること”の双方の重要性を説いているのである。

 

 因みに、感謝を表すときは“ありがとう”と言うが、この“ありがとう”という言葉の由来は、有り難い = 有ることが難しい、つまり“めったにない貴重さ”という意味が転じて感謝を表す言葉になったのだそうだ。人がこの世に生を受けたこと自体が奇跡であり、そのことに感謝する大切さを忘れないために存在する素晴らしい言葉であると思う。

 

 至高のフランス料理カンテサンス。なんと先輩からまた予約が取れたとお誘いをいただいた。今回学んだ豊かさを増幅させる2つの要素を意識して、さらなる感動を体験してきたいと思う。

 

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