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令和4年〆の一冊

日本の紙幣の顔と言えば壱万円札に描かれた福沢諭吉だ。しかし、2024年上半期には、日本の紙幣の顔は渋沢栄一に変わる。その顔は日本の教育の父から、日本の経済の父に移り変わるのは、今の日本の経済的余裕のなさを反映しているかのようでもある。

一昨年、NHK大河ドラマ、論語と算盤に関連する多数の書籍の出版等々、渋沢にまつわる話題は枚挙にいとまがなかった。そこで、2024年までの日本の紙幣の顔である福沢に思いを馳せ、彼は何を社会に伝えたかったのか、誰もが知る福沢の言葉を頼りに令和5年の指針を紡ぎ出してみたいと思う。

 

福沢は明治維新期(明治5年)に「学問のすすめ」を世に出している。誰もが未来に対して漠然とした不安を感じていた頃だ。福沢の言う学問の根底にあるのは実学である。故に実生活の至る所に学問の機会があると説いていた。その根拠のひとつに「飯を炊き風呂の水を焚くも学問なり」と言っている。考えるに、飯はどうやって炊くのが最も美味く炊けるのかを追求すること。どうすれば風呂の水は気持ち良い湯温に焚くことができるのか。そのような日常にあって、創意工夫を試みて自分自身の頭で考えることに学問の本質があると伝えたかったのだろう。

一方、福沢が最も忌み嫌ったことは、学問を単なる座学と捉える者たちの事であったそうだ。本を読みわかったような事を言って何も行動しない者など無用の長物だと言って憚らない。現代に置き換えるなら、スマホでGoogleやYouTubeで見聞きした事だけで、世の中を知ったような気になって語っていたとしても、何も行動を起こさぬ者は無用の長物。と言われても納得感がある。人を動かし、コトを動かせるのは、自分の頭を使って考え行動した者達だけである。このことばかりは今も昔も変わらない。

 

あらためて、福沢が考える学問、特に学びの姿勢で重要視していたことは何か?

実学を重視し、実生活の中にも学問があると説くことから想像するに次の3つの要素が重要なのではないかと考える。

 

①    何事にも好奇心を持つ

②    日々の生活の中でも創意工夫を凝らす

③    積極的な試行錯誤を繰り返す

 

これら3要素を持ちえた意欲溢れる人材なら、新しい価値を生みだしてくれることも多いに期待できそうだ。明治初期、期待と不安に満ち溢れた社会の雰囲気の中で、福沢は日本を豊かにし海外に劣らない国とするためには人を育てねばならないことに気がついていたのだろう。その証拠に人を育てるのであれば「国とわたりあえる人物たれ」と力説している。おそらくは、海外視察で見てきた民主主義思想とそのシステム、そして民主主義が成り立ってきた背景も研究したはずだ。更に、高度に工業化された産業技術の数々、発達した都市での人々の豊かな暮らしぶりを観て大いに学んできたことだろう。

一連の海外視察で多くの刺激を受けてきたからこそ、「どうしたら日本を強く豊かな国にすることができるのか」について、福沢は昼夜を問わず考え続けていたと思われる。そして行き着いた答えの一つが、国の最大の資本は国民=「人」だと確信したのではないか。だからこそ「学問のすすめ」なのである。

歴史的事実から考えれば、明治維新期に廃藩置県があり、政治は中央集権化していき、武士は皆失業したので、全員が同じスタートラインに立たされていた。最も不安を抱いていた武士達の将来を支えるのは、「武」でなく「学問」であることを強いメッセージと共に届ける必要があったと考えると合点がいく。

他方、国家としては植民地化への危機感があった。欧米列強国の植民地支配から日本をどうやって守るのか。この問題に対応するには、国民一人ひとりの力を活かさねばならない。当然ながら、やる気のある者にはチャンスを与えるシステムが必要となると考えたことだろう。そして福沢が世に出した最も強いメッセージのひとつは「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといへり」であり、「されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり」である。要するに「学問」はどんな立場の者であっても、それをすれば成功できると言っており、「人」とは武士だけでなく商人も農民全ての人を意味したことから、「学問のすすめ」は社会全体を鼓舞するだけの影響力を持ったのだ。

 

敢えて言うなら、明治維新期の福沢にとっての社会課題は、国家レベルで人的資本経営に取り組むことだったとも言える。それが「国とわたりあえる人物たれ」と言う一言に凝縮されている。福沢の目線の高さにあらためて気づきかされる一言だ。

福沢の言を現代の企業に当てはめてみると「トップとわたりあえる人物たれ」となる。私たちはともすると経営者を支援する役割に甘んじ、経営者の指示を待ってしまう。「学問のすすめ」は温故知新とは言わないまでも、日本企業の人づくりの基本姿勢への示唆となり得る。経営トップの後継者育成は企業にとっては長期的に取り組む重要な経営課題だ。経営層やトップと対等にわたりあえる人材育成をモットーに、本当に社内で育てるプロラムを持っている日本企業がどれほどあるのかは疑問が残る。福沢の国家を支える人材育成思想に肖り、日本の大企業の多くは、今一度長期戦略としての人材育成を再構築しなければならないのではないか。

 

さて、キャッシュレスの世の中になり壱万円札を手に取り福沢を拝顔する機会も減るかもしれないと思いきや、日経新聞によるとキャッシュレス決済が浸透する裏で紙幣の発行が増える現象が起きているらしい。(22年11月の紙幣の発行残高(月末)は、121兆円と前年比2.8%増だ。近年は対前年で2~6%ずつ増加)

まだ暫く福沢を眺められるのであれば「学問のすすめ」の精神を思い出しつつ、これからの人的資本経営、新しい長期的人材育成の取組みを考えよう。私たち企業人一人ひとりが「学問のすすめ」の精神をいま一度理解し行動していけば、日本はまだまだ世界に新しい価値を示せるに違いない。そういった訳で、令和4年の〆の一冊は「現代語訳 学問のすすめ(ちくま新書)」をお薦めしたい。是非とも同書の本質を理解し、令和5年を力強くて走り抜けてもらいたい。きっと何かワクワクするものがみつかるはずだ。

 

令和五郎

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