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ギフテッド

「ギフテッド」の具体的施策が日本国内の学校を中心とした教育現場ではじまることから、メディアで取り上げられる機会が増えている。

文部科学省は「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」の提言をとりまとめ、2023年度から本格的な支援策を打ち出す。有識者会議では、特出した才能を持ち通常の授業で苦痛を感じたり孤立したりする児童生徒について、習熟の程度に応じた自由度の高い学習を取り入れる教育環境を構築すべきだとし、従来の平準化された横並び教育から脱却した対応を求めた。

提言では、具体的な取組として大学などのオンライン授業の受講や別教室での学習をおこなうことなどの環境整備を求めたほか、特定の基準で才能を定義せず個々の子どもたちに適した対応が必要としている。

 

言葉としての「ギフテッド」は「神から与えられたもの」と訳されるが、教育においては突出した、または特別に与えられたといった意味合いをもつ。先天的に持つ資質であり、教育や学習努力によって後天的にギフテッドになることはないという考えに基づく。
 

先行して取組が進む米国では1950年代頃にギフテッド教育がスタートし、連邦法に基づき州ごとに教育プログラムが展開されている。NAGC(National Association of Gifted Children)ではギフテッドを以下のように示している。

 

“一つまたは複数の領域において同じ年齢・経験・環境にいる生徒と比較して極めて高いレベルでパフォーマンスを発揮している、または発揮する能力を備えており、自らのポテンシャルを知り気づくために適切な教育機会を与える必要がある。
これらの生徒は、人種・民族・文化圏・経済圏を問わず存在し、才能発揮の領域だけでなく社会的および情緒的成長のサポートが必要とする”

 

前述の文部科学省の有識者会議では、日本国内では「ギフテッド」の言葉そのものの定義があいまいであることの懸念や解釈がばらつく可能性を念頭におき「特定分野に特異な才能のある児童生徒」と日本語で表現することを決めた。
昔であれば神童などと呼ばれていたかもしれないが、他国発祥の英単語を今回の取組で私用することは避けたほうが望ましいと判断したのだろう。

 

日本国内における支援策や具体的な取組はこれまであまり進んでおらず、飛び級などの制度を一部の大学で実施したのみとなっている。その背景には先進的な取組が目立つ欧米と日本独特の教育観の間にあるギャップが挙げられよう。

 

歴史的・地理的にも異なる人種が混在する社会が形成されてきた欧米では、多様性とその中で生きる個人の独自性が尊重される傾向が強く、教育においても自らの持つ強みや得意分野を学校や家庭が見出して伸ばす教育環境・教育観が特徴となっている。
ギフテッドでなくとも、個々の特性や個性を認め合う文化が根付いておりダイバーシティへの意識も高いことも背景にある。

ギフテッドの領域は、数学や語学能力だけでなく科学技術や芸術、スポーツなど多様な範囲としているほか、その見いだし方も知能検査や学力テストだけでなく児童の制作物や発表、教師のチェックリストや本人の質問への回答など俯瞰的な活用がなされている。

 

米国では州で異なるもののきめ細かいプログラムがギフテッドに提供される。いくつかの例を見てみよう。

・プルアウト方式: 普段は通常クラスに在籍し、定期的にギフテッドの子どもたちだけを集めた授業を行う方法。
・アクセラレーション方式: 飛び級や大学などに早期入学する方法。その他学年に在籍したまま特定の授業だけ上級学年のクラスに参加するケースもある。
・カリキュラムコンパクト方式: 既に習得している学習のカリキュラム内容を調整し、子どもに見合った新たな内容、強化プログラムに置き換えた指導で対応する。

 

一方、多くの現場の教員がギフテッド教育の実践に必要なトレーニングを十分に受けておらずギフテッドの可能性をもった子どもを見極められていないという課題もある。NAGCによると教師の73%は「きわめて優秀な生徒たちが学校で退屈しており、能力を発揮できていないことがある。私たち教師は彼ら彼女らが成長するための十分な機会を与えられていない」と回答しているという。
NAGCでは、教員向けにギフテッド教育のガイドラインを示し、制度の背景の理解、知識とスキルの習得、判断基準、具体的な学習実践などの要点を示すなどして教員の理解促進とスキル定着を目指している。

 

日本を見てみるとどうだろうか。ほぼ単一民族で構成される日本は、集団としての和が尊重され教育も横並びや平均を重んじながら全体レベルを一定に保つ教育環境が根強く存在することが特徴としてある。
義務教育の過程においては年齢に応じた学習カリキュラムが決まっており、出来不出来にかかわらず皆一緒に進級することが前提となっているため、教育現場は生徒の取りこぼしが無いようにフォローし年度のカリキュラムが終えることが求められている。特定の優秀な生徒を取り出し才能を伸ばす場や機会がほとんどの学校にないことから、学校生活にストレスを感じたり周囲の子どもたちとなじめずに孤立に繋がるケースもあるという。
また有識者会議が実施したアンケートによると、特異な才能のある生徒が定められたカリキュラムに基づく授業レベルに合わせなければならず、朝8時から午後3時までずっと座り続けて既に知っていることを授業で聞かなければならないことが苦痛となったり、知的好奇心が満たされないなどの理由から不登校またはその傾向があることが指摘されている。

今回の有識者会議の提言では、才能が持つがためにぶつかるこれらの苦悩・困難の解消にも繋げる試みとなるべきであると強調している。

 

一方、特異の才能を持つ生徒を見出す判断は現場の教員の裁量に委ねられていることが今回の支援策における大きな課題になっているといえよう。有識者会議では自治体などから「本人や保護者への説明で混乱が生じないよう、判断の指標が必要ではないか」との意見も出たものの「特定の子どもたちをラベル付けしかねない」との理由から基準を示していないという。学校現場で教員たちがその支援対象となる子どもを見極めて判断していくことは大きな迷いと負担を生むことになるのは想像に容易い。


有識者会議の提言を受け、文部科学省の2023年度予算では以下の3点を注力領域として概算請求している。
・特異な才能のある児童⽣徒の理解のための教職員向け学習・研修の促進

・実証研究を通じた実践事例の蓄積と横展開

・特性を把握する⼿法・プログラム等の情報集約

 

文部科学省の進める子どもへの学習支援と個別最適の教育の実現に向けた取組は、まだまだぼんやりとしたフレームのみだ。特異な才能を持つ子どもが孤立することなく学ぶ楽しさを実感しながら多様な才能が発揮できる環境づくり、それを任される教育現場への継続的なインプットとフォローは欠かせない。

有識者会議の提言をベースに、先行する諸外国の取組や課題も参照にしながらどのような具体施策が今後打ち出されるのか注目したい。

 

今回の取組の大目的は多くの埋もれた可能性を見出し、特異な才能をもつがゆえに学校生活に困難を抱える子どもとその親に個別最適な教育環境を創出し支援することだ。

ただ、これらの子どもたちがその才能を発揮し続けるには学校生活や教育環境の整備だけではなく、多様性を認め合い受容する社会が日本にあるということが前提になる。

「人と違う」ことを個性として受け容れ、それぞれが持つ可能性や創造性、才能を見出しながら発揮できる社会。少しずつ変わっていくことを期待しよう。

 

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参照データ:

National Association for Gifted Children https://www.nagc.org/

令和5年度文部科学省 概算要求等の発表資料

https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668_00004.html

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