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ヒーローたちの未来

 2023年1月に日本映画製作者連盟が発表している「2022年全国映画概況」を見ると、2022年の全国映画館の入場者数・興行収入は前年比で大幅に増大した。 2020年~21年はコロナ禍による人流抑制により、コロナ禍前の19年の映画館入場者数と比較し、20年が67%、21年が71%と減少していたが、22年は93%まで回復している。入場料金×入場者数から計算される興行収入は前年比131.6%、入場動員数も前年比132.4%と大幅に増加し、映画業界の復活の兆しが見て取れる。

 

 世界歴代映画興行収入ランキングトップ10(2023年11月時点)を見てみる。

 

1位 アバター                29.237億ドル 2009年公開

2位 アベンジャーズ/エンドゲーム      27.994億ドル 2019年公開

3位 アバター:ウェイ・オブ・ウォーター   23.203億ドル 2022年公開

4位 タイタニック              22.647億ドル 1997年公開

5位 スター・ウォーズ/フォースの覚醒    20.713億ドル 2015年公開

6位 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 20.524億ドル 2018年公開

7位 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム  19.218億ドル 2021年公開

8位 ジュラシック・ワールド         16.715億ドル 2015年公開

9位 ライオン・キング            16.631億ドル 2019年公開

10位 アベンジャーズ              15.205億ドル 2012年公開

 

 1位から10位までの中にアメリカのマーベル・スタジオの作品が4作品ランクインしている(下線)。マーベルシリーズの累計興行収入は294億ドル(2023年6月時点)に上り、映画シリーズ累計興行収入2位のスターウォーズシリーズの103億ドルに倍以上の差をつけ、史上最大の映画シリーズとなっている。

 

 マーベル作品は、ヒーローたちが活躍するアメリカのマンガ「マーベル・コミック」を原作とした実写映画の作品群である。全てのストーリーが同一の世界観を共有しており、歴史や事件、登場人物の設定などが作品内で共通していることが特徴である。また、マーベル作品ではヒーローのタイプも幅広く変わってきた。最新作の「マーベルズ」では、主演のキャプテン・マーベル含むメインキャラクター3名が女性、監督も女性、ストーリーに登場する敵役も女性である。また、2021年公開の「シャン・チー」ではマーベル作品初めてのアジア系ヒーローが誕生し、2022年公開の「ブラックパンサー」ではマーベル作品初めての黒人ヒーローが誕生した。このようにアメリカのヒーロー作品における多様化が進んだ背景には、アメリカが多民族国家であることも関連しているのではないだろうか。これらが社会現象となり、普段はマーベル作品に興味がない人でも映画館へ足を運ぶきっかけとなるようだ。

 

 これまでのヒーロー作品は、シンプルにヒーロー対悪役というようないわゆる勧善懲悪的なストーリーが一般的だった。ヒーローといえば「スーパーマン」のように常人にはない特殊な強い力を持っていて皆が憧れる神のような完璧な存在だった。しかし、マーベル作品の「スパイダーマン」では等身大のヒーロー像が描かれており、主人公のピーターは平凡な高校生でどこか頼りない。スパイダーマンであるピーターも、アベンジャーズの他のヒーローと出会いファンとして大はしゃぎしてしまう描写もあり、映画を見ている人たちが親近感をもって見ることができる。その他の作品を見ても、アベンジャーズのヒーローたち一人ひとりも完璧な存在ではなく、過去のトラウマなどの自分自身が背負ってきた弱みと向き合う姿も描かれていることから、これまでの誰もが憧れる完璧なヒーロー像から、特別な力を持っているものの1人の人間であるというヒーロー像が変化してきていることが見て取れる。

 現実の世界でも多様性が重要視されるようになりいい人間と悪い人間に明確に二つに分けられるような単純さでは表現しきれなくなってきたことが、このようなヒーロー像の変化に関連しているといえるのではないだろうか。

 

 日本におけるヒーロー像については、1958年に放送が始まった「月光仮面」が特撮ヒーローの始まりだといわれている。その後1966年に「ウルトラマン」が開始、1971年に「仮面ライダー」が開始している。これらはどれも主人公が男性である。1973年には、変身して戦う女の子の元祖として「キューティーハニー」が開始した。その後は「ラ・セーヌの星」(1975年)や「ベルサイユのばら」(1979年)と女性主人公が戦うアニメが続いている。この両作品はどちらもフランス革命をテーマにしているが、「ラ・セーヌの星」は民衆の側から描かれており主人公が変装して戦うストーリーとなっている。一方「ベルサイユのばら」は貴族の側から描かれておりこちらは主人公が跡継ぎのいない伯爵の後継者として男性として育てられるストーリーで実在するマリー・アントワネット処刑までが描かれている。この頃のヒーロー作品では過去の政治的闘争を背景にし、ヒーローと敵役が分かれていたと考えられる。その後スーパー戦隊シリーズは1975年に「秘密戦隊ゴレンジャー」の放送が開始しており、最初は男4:女1のメンバー構成だったが。1985年に男女雇用機会均等法の改正があり、メンバーのうち女性が2人に増えた。このあたりから、女性が主役の戦隊作品も増えた。1989年には44年続いた冷戦も終わり、1990年には女性の職場進出や核家族の進行等による家庭機能の変化や、労働力不足の懸念などを背景に育児休業法(現在の育児介護休業法)が施行され、子どもが1歳になる前日までの期間男女労働者に育児のための休業が認められるようになった。そして1992年には「美少女戦士セーラームーン」が開始し、女子戦隊ものが増えてきた。

 

 日米で比較した場合もヒーロー像には違いがあるようだ。日本のヒーローは、初めから平和を守るために警察や政府と連携した何かしらの組織や団体に属していたり、団体で行動したりすることが多く、正義の存在が悪に対抗して戦うヒーローが一般的だった。アメリカのヒーローは、表向きは全くヒーローに関係のない仕事や生活をしているが、心理的な変化などから一個人が能力を手に入れ、ヒーローになる。そして、能力のある者がそうでない者たちのために戦うヒーローが一般的である。

 

 ただ、日本のヒーロー像も新世代に移行してきているかもしれない。「僕のヒーローアカデミア」という作品では、人口の8割が何らかの超常能力“個性”を持つ世界で、個性を持たない“無個性”でいじめられてきた主人公が人々を守る職業であるヒーローを目指し、ヒーロー育成学校に通うという内容だ。これまでの「常人にはない特殊な強い力を持っており皆が憧れる完璧な存在」に見えたヒーロー像から日本のヒーロー像も変化してきているといえるのではないだろうか。

 

 ヒーロー像は時代の変化に伴って少しずつ変化している。マーベル作品では既に公開が決まっている新作も多くあるが、マーベルのヒーロー像は今後どのように変化していくのか。テクノロジーの進化がヒーロー世界にも影響を与え、ヒーローの能力や装備も変化するだろう。また、社会課題への取り組みが強化され、環境問題や人権問題などに向き合うことが描かれるかもしれない。日本人ヒーローがマーベル作品により描かれる未来に期待したい。

 

グース

 

2022年(令和4年)全国映画概況

http://www.eiren.org/toukei/img/eiren_kosyu/data_2022.pdf

 

世界歴代映画興行収入

https://www.tsp21.com/movie/worldmoviealltime.html

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