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産後の心のケア

出産は女性を中心に家族を持つ人たちにとってライフステージにおける大きなイベントであるが、出産後に起きるこころの病気『産後うつ』を発症するケースが増加しているといわれる。出産後に10~20%程度の母親がその症状を感じているというデータもある。

 

一般的には産後の数週間から6カ月までの間に発症するといわれ、「眠れない」「気持ちが落ち込む」「悲観的になる」「育児が不安になる」など様々な症状があらわれる。

一般的に出産後しばらくは産院で母子へのケアやドクターや看護師への相談と親身なアドバイスなどを受けることができるが、退院後の母子の生活は家族のスタイルによって異なるものの多くは限定的な空間で育児を行うことからスタートする。小さな命と向き合い、孤立感を感じる環境に置かれるのが産後半年程度といわれている。

こういった出産による環境変化に加え、育児ストレス、核家族化によるワンオペ育児の負担、少子化による育児コミュニティの減少、社会からの孤立などが原因となるほか、里帰り出産など実家から自宅に戻った後に発症する母親も多く、産後うつは特に都市部で増えているともいわれる。

 

厚生労働省は、退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後誰もが安心して子育てする環境を整えるための支援体制の整備する「産後ケア事業」の法定化してきた。

主な内容として①宿泊型(病院、助産所等の空きベッドの活用等により、宿泊による休養の機会の提供等を実施) ②デイサービス型(個別・集団で支援を行える施設において、日中、来所した利用者に対し実施)③アウトリーチ型(実施担当者が利用者の自宅に赴き実施)がある。まだ予算や人員の確保が難しさから自治体によって導入の程度は様々となっているほか利用可能期間は原則7日以内と限定的になるなどの制限はあるが、少子化対策を踏まえ自治体も段階的にその支援策を充実させてきている。

 

一方で見過ごされがちなのは「父親の産後うつ」である。

昨今、企業の推奨により男性の育休取得者が増えている。大企業では2023年4月から男性の育休取得状況の開示が義務付けられ、厚生労働省が発表した「令和4年度雇用均等基本調査」によると男性の育休取得者の割合は17%程度とされ、前年度から大幅に伸長した。世の中では「イクメン」という言葉も定着し、男性の育休を進めるための政策が検討され、仕事と育児の両立は当たり前の時代になりつつある。

 

父親の育児参加が進む中、父親の産後うつは母親の産後うつと異なり自治体が把握する体制が進んでいないため表面化しにくいとされるが、その比率は母親と同じ10%程度との調査結果がある。父親の産後うつになる要因は複合的だが、母親の産後うつと同じく睡眠不足や孤立感、仕事との両立だけでなく、「父親とはこうあるべき」「男は弱さをみせてはいけない」「一家の大黒柱として頑張らなければならない」といった無意識に持つジェンダー意識からの強い責任感と気負いが指摘されている。責任感が強いために弱さが出せず、本人も症状に気づきにくいケースも多い。産前産後の両親学級などの支援策があるが、教えられるのは母親へのケアや母子の健康に関することに限られており、父親を対象とした支援は未だ十分に行われていないのも実態だ。

国立成育医療研究センターによると、「夫婦のどちらかがメンタルヘルスの不調になると、もう一方も不調に陥る可能性が高くなる傾向がある。夫婦が同時期に不調となると、養育環境も著しく悪化しやすくなることが懸念される。そういう危機的な状況を防ぐためにも母子だけでなく、父親も支援対象とみなければならない」と産後のメンタルヘルス不調のリスクを指摘している。

夫婦共稼ぎの世帯が7割程度という社会構造の中、父親に対しても家事や育児を求める価値観が定着しつつあるが、育児に関しては母親を対象とした社会や企業の制度整備に偏重し、父親を取り巻く環境は後手となり改善は進んでいない。そういったアンバランスが産後の育児参加にかかわる父親に対するプレッシャーの一因となっている可能性もある。

 

政府の制度整備を待つまでもなく、育休取得を推進する企業側でも働き方を含めた対応は先行して実施できよう。産後うつを予防できるよう組織内で相互扶助のネットワークを持ち、親の性別に関係なく理解者・協力者を増やしていくこと、そして特に父親については長労働時間や働き方を配慮するなど就労時間の調整をすることなどが先ずは考えられる。

 

産後うつは、親自身が発症に気づかないまま症状が進行することも多いとされる。母親・父親いずれも育児を抱え込まずに、気負い・気兼ねなく相談したりサポートしてもらえたりする世の中であってほしい。行政の窓口や民間のサービスだけではなく、前述したように企業側も実態を踏まえ男性も含めた産前・産後うつ病への理解、啓蒙、教育が必要と考える。誰もが発症する可能性があることを理解し、当たり前に支え合う環境が待たれる。

 

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