News / Topics

最新情報

ライドシェアは日本で普及するか?

 京都ではコロナ禍の落ち着きにより観光客が戻ってきたそうだが、タクシー待ちの列は長く、週末では30分以上待つこともあるらしい。観光需要が低迷していたこの3年間で運転手の約2割にあたる1800人ほど減少し、タクシー不足が起こっているのだ。減少した運転手は60歳以上でそのまま引退している方も多い。

 

 これに対し、4月に政府が導入したのがライドシェア事業である。ライドシェアと似たものとして、カーシェアが挙げられる。カーシェアは空いている車と、車を利用したい人をマッチングさせるサービスであり、ライドシェアは自動車の相乗りを指し、ドライバーと乗車したい人をマッチングさせるサービスのことである。今回導入されたのは、東京、神奈川、愛知、京都のタクシーが不足する地域で時間帯を制限して、一般のドライバーが有償で乗客を運ぶサービスだ。タクシー会社が事業の一環として運行を管理する形で、配車や車両管理、運送責任など安全に関することはタクシー会社が担う。今後は大阪など他の都市圏にも広げる見通しで、タクシー会社以外にもライドシェア事業を認めるよう求める声もあり、今後も動きがあるだろう。

 

 ライドシェアサービスの発祥はアメリカのUber社だ。日本でのUberといえば、街中でUberEatsと書かれた大きなリュックを背負った配達員が、食べ物や日用品などを運ぶ運送業のイメージが強い。Uberは配車サービスの提供を2009年に始めた企業とされており、現在のライドシェアサービスの始まりとなっている。このUberの成功を受けて、アメリカのLyftなど、他の企業も同様のサービスを提供するようになり、ライドシェア業界は急速に拡大した。これにより、ライドシェア市場の成長率は、年平均約20%で拡大していくと予想されている。さらに2030年までには世界のタクシー市場の約3倍にあたる2850億ドルまで成長し、ライドシェアユーザーの割合は全人口の13%に迫るとされている。

 

 海外では成長市場として期待されているライドシェア事業だが、なぜ日本ではこれまで導入されてこなかったのか。

 調べてみると、実は日本でも一部地域でライドシェアが認められていた。それは、「自家用有償旅客輸送」というもので、交通空白地での運送や障がい者等の運送など、地域住民の生活に必要な運送に関して、バス・タクシー事業による提供が困難な場合に、市町村、NPO法人等が自家用車を用いて有償で運送できることとする制度であった。実際には、交通空白地における有償運送が導入されている自治体は、2022年3月時点で、572市区町村で全体の33%となり、導入団体・車両数共に年々増加傾向にあった。

 こちらの自家用有償旅客輸送については、利用者は地域住民・観光客が想定されており運送地域もおおよそ決められている。運送の対価としては、タクシーの2分の1の価格を目安に、法律により実費の範囲内でのみ収受が認められている。

 

 このような状況の中で、日本でもライドシェアの導入が認められるに至った理由は何なのか?

 これまで、日本でライドシェアが導入されてこなかった理由は、自家用自動車を有償で補償の用途に使用することが禁止されていたからである。そして、法律の問題だけではなく、安全面にも理由があるといえる。タクシー事業は法による厳しい審査を受けており、国土交通省から新規参入の際や料金に関する認可を受ける必要がある。そして、各営業所に国家資格を持つ運転管理者が運転手の勤務時間などの体調管理を行い、車両の点検も毎日行い走行時の安全確保をする必要がある。また、運転手はもちろん普通運転免許ではなく、二種免許を所持している必要がある。これだけ厳しい決まり事があるうえで、タクシー事業は成り立っており、そこに一般のドライバーを利用したライドシェアが参入し共存することには反対意見が多かったという。しかし、冒頭でも触れたようにタクシー業界は人手不足が加速しており、このままでは観光客やその地に住む住民たちの移動に関する不満が募るばかりであった。そのため、一部制約がありつつも、タクシー業界の人手不足解消、地方などの交通未発達地域や観光地などでの交通供給不足への解消を目的にライドシェアが導入された。導入されたライドシェアは、タクシー同様配車アプリを使用して配車し、運賃はタクシーと同額であるため、これであればタクシー業界とも共存が可能という見立てだ。導入された4地域では既に1万人以上のドライバー応募があり、ドライバー不足解消には一定の効果がありそうだ。

 

 今後、車両やドライバーの安全管理のあり方やドライバーの雇用形態などが論点となり、政府は6月に向けて議論を進める方針と発表している。Uber Japan株式会社発表の「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」によると、ライドシェアサービス提供国の多くではUberを選択する理由としても上位に安全性が入っているため、安全性に対する対策は必須と考えられる。安全性の担保については今後も政府が議論するとの方針であるが、ライドシェアのドライバーはタクシーの運転手と異なり第二種運転免許がなくても運行可能である中で、安全確保のためにドライバーは直近2年間無事故であることなどが条件とされている。日本では、事故が起きた際の最終的な責任は、ドライバーを管理するタクシー会社が負うことになっているが、ライドシェアサービスが普及している海外では保険加入が義務付けられている国や、車両へのGPS搭載が条件になっている国もあるため、日本でも同様の措置が必要かどうか、がポイントとなる。

 また、MMD研究所の「タクシーの利用とライドシェアに関する調査」によると、ライドシェアについては、「利用したことがある」(国内外問わず乗車する側として利用)が4.7%、「利用したことはないが、サービスの内容は知っている」が20.3%、「聞いたことはあるが、サービスの内容は知らない」が29.9%であり、3つ全て合わせた認知は54.9%だった。日本でのライドシェア解禁に対する賛否では、「賛成」と「やや賛成」を合わせた賛成が57.8%とやや優勢であり、さらにライドシェア利用経験者に、周囲の人にライドシェアおすすめしたいか聞いたところ、「すすめたい」「ややすすめたい」を合わせた推奨度は84.7%だった。これらのことから、ライドシェアを認知している層が日本でライドシェア乗車経験を増やせば推奨する人が増え、ライドシェアは普及していくと考えられる。そのため、まずは人々のライドシェア乗車経験を増やすことが重要である。

 ライドシェアに反対をしている4割の人も安全面の担保がされていれば、30分タクシー乗り場で待つこともなくなり、早く目的地へ移動したいというニーズを叶えられる手段としてライドシェアを選択する人は増えるのではないか。そしてライドシェア事業は普及していくのではないだろうか。安全面の担保についても、様々な規制で担保するだけでなく、自動運転車両などの新しいテクノロジーとの組み合わせによってサービス展開が見込まれるかもしれない。そのためには道路運送法の抜本的な改正も必要になるだろうが、人々が安全に不満なく移動できる手段として電車やバス、タクシーだけでなく、ライドシェアや自動運転などの選択肢が増えていくだろう。さらには自動運転が当たり前の社会になれば、そもそも車を所有する人も少なくなり、本当の車好きだけが自分で運転をしているような社会になるかもしれない。ライドシェアだけでなく今後のモビリティ全般の動きにも注目していきたい。

 

雪うさぎ

 

「タクシー不足に対応する緊急措置」及び「自家用有償旅客運送制度」について」

国土交通省:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/231106/local02_01.pdf

「タクシーの利用とライドシェアに関する調査」

MMD研究所:https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2328.html

「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」

UberJapan株式会社:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/231106/local03_02_rev.pdf

「海外のライドシェアの現状と日本でのあり方」

大和総研:https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20180601_020125.pdf

Contact

お問い合わせ

PMIコンサルティングでは、企業の人と組織を含めた様々な経営課題全般、求人に関してのご相談やお問合わせに対応させていただきます。下記のフォームから、またはお電話にてご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。