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「合理的配慮の義務化」の浸透に向けて

 令和3年の障害者差別解消法の改正により、4月1日から事業者には障害のある人々への合理的配慮の提供が義務化された。ここでいう「障害のある人」とは、身体、知的、精神、その他心や体のはたらきに障害(難病等に起因する障害も含まれる)がある人など様々な障害を抱え、それによって日常生活や社会生活に制限を受ける人々を指す。この法改正は、行政機関等及び事業者に対し、不当な差別的取扱いを禁止し、共生社会の実現を目指すために行われたものである。

 

想定しやすい状況の例を挙げると、障害のある人が街中の飲食店を利用したい時に入店を拒否されることや、同伴者を条件にされるなど、不当な差別的取扱いを禁止することである。また「合理的配慮の提供の義務化」のポイントは、障害のある人が健常者と同様のサービスの享受を希望した場合に、その負担が事業者側や相対する従業員に過重でない範囲の場合は、適切に応えなければならないというものである。例えば飲食店のケースだと、レジでの会計が込み合っている場合に、立っているのが不自由な人の申し出によって、テーブル会計を行うことや、声を発することが不自由な人の申し出によって、筆談(紙を使ってのコミュニケーション)対応をすることなどが挙げられる。そうすることで障害を持つ人が、健常者が普段している日常生活への広がりから断絶されないような社会を作り上げるといった狙いがある。

 

このような取り組みは、共生社会を築くための重要な一歩である。社会の価値観が変化している現代において、平等やジェンダー、人種、宗教の違いだけでなく障害のある人への配慮がますます重要となっている。しかしながら、この施策の浸透には課題も存在する。

 

 この施策は障害のある人側の心理を十分に理解せずに、単に事業者側に運用を求めても、効果を上げることはできない。実際、障害のある人の多くは自らの要望を相手に切り出すことにハードルの高さを感じている方が多く、人の手を借りる必要のある場所に進んで行くことを避ける傾向がある。これは、周囲に迷惑をかけたくない、普通の人として扱われたいという気持ちなど、過去の経験やトラウマから生じるものである。したがって、事業者側は、いざ障害のある人が自店に来たときになって初めて対応し始めるのではなく、積極的に「合理的配慮の提供」ができる体制を整える必要がある。

 

 現在国内では、外国人旅行者によるインバウンド需要の高まりから、繁華街や観光地、都内の駅などでは外国人への配慮が次々に進んでいる。中心地にある飲食店などのメニューはたいてい外国語にも対応している。ただし、障害のある人への対応は決してこれらと同様の広がりは見せないだろう。なぜなら外国人旅行者と比較をすると、そもそもの絶対数が少ない。そして外国人旅行者の需要を取り込むことは大きな経済価値へと繋がる可能性を秘めているからである。一方で、障害のある人はそもそも進んで人の手を借りる場に行きたがらない傾向にあり、自身から進んで相手に要望を出す傾向も少ない。つまり、事業者側は需要が増す見込みも少ない時点からこの施策に応えられる準備が求められる。事業者側は、即席的な対応ではなく従業員への教育や準備を十分に行い、障害のある人が安心して様々な場所へ出向いたり、自ら多くの選択肢に対して、手を挙げられる状態を作り上げることが求められる。受け手側はそれらの状態が確認できてから初めて一歩を踏み出すため、そうでない限りはこの施策が広がることは難しい。なぜなら、万が一教育を受けていない従業員が障害のある人へ、下手な対応をしてしまうと、トラウマとしての経験が増え、次なる一歩へのハードルが高まり、逆効果になりかねない。社会との共生に向けても後退しかねない。

 

 そのため、事業者の立場ではESG経営の観点からも積極的な準備を進めるべきである。例えば、お店の外観に障害のある人への積極的なサービス提供を示すステッカーを貼ることや、従業員教育の観点では、障害のある人へのサービス提供に関する認定制度の構築や教育研修を実施することなどがある。

また一般の市民の方でも協力できる余地はまだまだある。例えば、街中のいたるところにある黄色の点字ブロックの上は歩かない、車いす用のスロープは歩かない、盲目の方へサポートをする際に勝手に相手へ触れてはいけない等のお作法を学ぶなどが挙げられる。このように社会全体で障害のある人を受け入れる適切な準備をしていくことで、彼らの社会への広がりも増す可能性がある。

 

 以上のように、合理的配慮の義務化は共生社会を築く上で欠かせない取り組みである。その浸透に向けては、障害のある人側のニーズを理解し、積極的な受け入れ態勢を整えることが不可欠であり、それによって社会全体の利益を追求することができるであろう。

 

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