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キャッシュレス決済を日本でより浸透させていくためには

 最近町を歩いていると、店舗内や入口に利用可能決済方法が記載されたPOPや案内をよく目にしないだろうか。私自身もいまでは財布を持ち歩かず、スマートフォンだけもって買い物に出かけるようになってきた。定期的に通っているとある自営業のラーメン店でも、最近まで現金のみの決済対応だったが、いつのまにかQRコード決済が使えるようになっていた。このような「現金を持ち歩かなくても買い物ができる時代」が実現するとは、昔の人は想像もできなかったであろう。キャッシュレス決済が急速に普及していっているという事実は皆さんも暗黙で理解していることではないだろうか。

 

 しかし、実は世界でみると日本のキャッシュレス決済の普及率は圧倒的に劣っていることが問題となっている。一般社団法人キャッシュレス推進協議会が公表している「キャッシュレス・ロードマップ2023」によると、上位3か国の決済比率はそれぞれ韓国95.3%、中国83.8%、豪州72.8%という数値に対し、日本は32.5%とかなり低いことが分かる。その中でも、手段別の比率としては、クレジットカードが53.2%を占めており、QRコード決済が23.8%、電子マネーが19.9%という結果だった。

 

 国際競争に後れを取らないためにも普及率向上が求められているのだが、そもそも、なぜキャッシュレス決済を普及していく必要があるのだろうか。それは、2018年4月に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」に基づいている。実店舗等の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上不透明な現金流通の抑止による税収向上と共に、支払データの活用による消費の利便性向上や消費の活性化等、国力強化につながる様々なメリットが期待されており、世界で推進されている中で自国として後れを取らないためであるとされている。個人的にも、現金盗難のリスクがなく、決済が迅速かつ簡単にできるため、非常に有効な決済方法であると感じている。

 日本でキャッシュレス決済の普及率が伸び悩んでいる要因として、「サービス利用者側のユーザー要因」と「サージス提供者側の店舗要因」双方に問題があると考えられる。

 

 「ユーザー要因」(サービス利用者側)

1.決済方法の混在

 多様なキャッシュレス決済サービスが存在するため、決済方法による店舗側の切り替えや知識不足から、現金支払いの方が手っ取り早く感じてしまう。

 

2.セキュリティ面への信頼度

 システムやデジタル技術への理解不足や、詐欺被害や個人情報流出への懸念がある。

 

 なお、この2つの問題点は、埼玉県が実施したキャッシュレス決済の利用状況についてのアンケート結果を参考にしている。キャッシュレス決済を利用しない理由の上位2つで、「現金支払いのほうが簡単・便利」が全体の50%、「サービスのセキュリティが不安」が全体の約42%を占めた。そのため、決済方法が複雑で面倒且つセキュリティ面の懸念が大きな問題であると考えられる。

 

 続いて、「店舗要因」を見てみよう。

 

 「店舗要因」(サービス提供者側)

1.費用対効果

 手数料や機材の導入コストがかかり、サービスを限定する必要がある。
 そのため、顧客ニーズとの費用対効果が期待できない。

 

2.運用難易度

 決済サービスが増えるたびに従業員を教育する必要がある。内容が複雑である。

 現金決済の方が早い。

 

 なお、この2つの問題点は、電通の「NCBキャッシュレス調査2021」に基づいている。キャッシュレス決済を導入しない理由として、「決済が完了するスピードが現金より遅い」という意見が最も多く、ここに紐づく要素として、「レジ業務が煩雑になった」「お客さまのやりとりが増えた」「端末機が増えてレジ周りが狭くなった」「お客さまが使い方をわかっていない」という声が多い現状だ。

 

 これらの問題を解決するために各社様々な取り組みが行われているが、日本にてキャッシュレス決済の普及率を上げていくための観点で、私なりの考えとして2つ対策案を挙げる。

 

 1つ目は、マルチプラットフォームをシステム化し、実装すること。

 主要なキャッシュレス決済サービスについて、同じアプリ内で複数の決済手段を統合し、簡単に切り替えることができるようにする目的だ。「ユーザー要因」の1、「店舗要因」の1と2を解決できる方法であるが、実際に米国の大手決済端末メーカー「Verifone社」の製品であるVerifoneV400mは、現時点でもマルチ決済可能な端末であり、クレジット、コード決済、ハウスプリペイド、ハウスポイントに対応しており、電子マネーの利用も現在準備中の段階である。店舗が多様な決済方法に対応可能な状態を作ることで、ユーザーがたとえ決済方法を絞ったとしても、別の決済方法へ促されるような不便な状況がなくなる。また、決済別に機材を導入する必要もなく1つに統一できるため、導入コストも抑えることができる。加えて、ユーザーが現金よりも手短に決済ができるような要素も盛り込まれていると理想だ。例えば、店舗側操作端末のホーム画面に決済種別のアイコンがあり、ユーザーが希望の決済方法を選択するだけで、あとはユーザーがスマホをかざす、QRコードを読み込むだけにすれば、2ステップのみで決済完了となるため、明らかに現金のやり取りよりスピーディーかつスムースになる。一方で、マルチプラットフォーム化がなかなか進まない理由として、各事業者が独自の技術やシステムの採用による規格統一の難易度が障壁となっているが、先進技術を用いることができれば、この障壁を越えることができるのではないかと考える。具体的には、ブロックチェーン技術によるオープンAPIの開発など、成功事例が少ないからこそ、先立って検証を重ねることで、マルチプラットフォーム化のみならず社会全体への貢献にもつながるのではないか。このような決済機器とシステムの開発は、キャッシュレス決済の普及率が上がるとともに業界全体の需要も増え、参入企業が増加して普及が加速することが推測できる。

 

 2つ目は、キャッシュレス決済の安全性を認知してもらうこと。「ユーザー要因」の2への対策だ。セキュリティ面への懸念が問題とされているものの、調査すると各社にてセキュリティ強化を目的としたシステム開発や導入事例は多くあがっているため、その事実をユーザー側が認知できていないことが大きな問題ではないか。具体的な例として、経済産業省が作成したユーザー向けの資料がある。非常に分かりやすくまとめられているものの、私自身も調査したうえで発見できた資料のため、ユーザーへの周知がうまくいっていない状況であると推測できる。周知を広げるためには、クレジットカード利用者に案内資料送付や、銀行来訪者への資料配布、窓口でのキャッシュレス導入の説明を、任意ではなく義務化することが必要ではないか。強制力を持たせることでキャッシュレス推進の重要度を伝える目的だが、ただ義務付けるだけではなく、銀行側にもメリットが生まれるように導入率に応じた報酬制度を設けると、普及に貢献できると考える。

 

 一方で、年々キャッシュレス決済機器の導入数やキャッシュレス利用者数は上昇傾向にあることは事実である。最近では、三井住友銀行がクレジットカード決済手数料を約3割引き下げ、PayPayと同水準値に引き下げを実施した。また、国交省が24年度7月より路線バスのキャッシュレス決済に限定できる規則改正を実施するなど、各企業や自治体、国がキャッシュレス利用者を増やすための施策を様々な形で展開している。今後キャッシュレス決済普及率の伸び幅は急激に広がることはあるのか、注目だ。

 

 

シャオリン

 

 

●参考文献

 キャッシュレス・ロードマップ2023/一般社団法人キャッシュレス推進協議会

 https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/roadmap2023.pdf

 

 キャッシュレス・ビジョン/経済産業省

 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/cl_vision.pdf

 

 キャッシュレス決済の利用状況について/埼玉県

 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0802/cashless/survey03.html

 

 キャッシュレス導入が進まない理由は手数料にあらず/朝日新聞社メディア事業本部

 https://www.asahi.com/ads/start/articles/00400/

 Verifone V400m(モバイル型) /ベスカ株式会社

 https://www.vesca.co.jp/ark/v400m/

 

 消費者向けリーフレット/経済産業省

 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/leaflet_syohisya.pdf

 

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