2010.11.25
日本NPOの財源確保のための改善策
今、大学生を中心とした10代、20代の若者たちの社会貢献にかける情熱が、非常に高まっている。2012年度卒学生就職モニターに対する「毎日コミュニケーションズ」の調査では、企業選択の際に重視することとして、「社会貢献度が高い」が前年比7.4pt増の41.0%と大幅に増加した。同調査では、2002年以降「社会貢献」に対する意識は常に横這いだったが、ここ1~2年で「社会貢献」に対する意識が非常に高まっている。
例えば、保育業界の難問、病児保育を実践するNPO法人「フローレンス」を立ち上げた駒崎弘樹氏や、食の不均衡(貧困と肥満・生活習慣病)の解消を目指すNPO法人「TABLE FOR TOW(テーブル・フォー・ツー)」の事務局長小暮真久氏の著書はベストセラーとなり、多くの人々の心を捉えている。
こうした日本人の社会貢献に対するロールモデルを得て、若者たちの中に「社会貢献につながる仕事をしたい」、NPOに就職したいと思う若者の割合が増加する一つの要因となっている。
しかし、日本で社会貢献を仕事とするには、まだまだ厳しい現実がある。日本のNPOスタッフの平均年収は、約200万円。日々の事業運営を行い、かつスタッフに一般企業と同等の報酬を払えるだけの財源が確保出来ていないのである。それゆえ日本のNPOには「30歳定年説」があり、日本のNPOスタッフは30歳頃になると辞めて行く人が多い。20代独身の若者であれば、この収入でも生活は出来るが、30代になり、結婚して子供を養うとなると、この収入では生活が立ち行かなくなるのが現状だ。
一方で、NPO事業先進国のアメリカでは、スタッフの給与も民間企業と遜色なく支払われていると言う。そのため、NPOで働くスタッフは報酬に対する不安もないため、30歳を過ぎても働き続けることができる。
では、日本のNPOは、どうすれば、アメリカの様に、スタッフが安定した報酬を得ながら働き続けられる環境を作る事が出来るのだろうか。
日本、及びアメリカのNPOの総収入のうち、約1/3程度が「寄付」から成り立っている(その他の収入源としては、政府等からの資金援助、事業収入等がある)。まず、財源を確保するためには、寄付金額を増やす事が解決のための1つの手段となる。
内閣府(税制調査会)によると、2002年アメリカの個人寄付金総額は22兆9千億円にものぼるのに対し、日本では2189億円に留まっている。日本とアメリカのNPOに対する寄付金の総額を比較すると、実に100倍以上の大きな開きがある。
そのため、日本とアメリカの寄付金額の違いについて「国の税金制度」「NPOの活動」の観点から対比することで、スタッフが働き続けられる環境を整えるための、日本がアメリカから学ぶべきポイントが見えてくると筆者は考える。
まず「国の税金制度」についてだが、アメリカには、寄付をした人の支払う税金の一部を免除する税制度がある。自治体や学校はもちろん、宗教や科学、それに絵画や音楽といった芸術分野など、非常に幅広い範囲への寄付が認められている。そして、寄付する人たちに対して、税金を安くしてあげることで寄付をしやすいように支援をしてきたのだ。
それと比較して日本では、個人の寄付として認められるのは、都道府県や市などの地方自治体や学校、限定されたNPO法人など狭い範囲に限られている。また、国が定めた団体に寄付をしようとしても、日本の税金の制度上、免除を受けることができないケースもある。
一方で、納税者が特定寄付金(国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対する寄付金)を支出した場合には、一定の所得控除を受けることができる「寄付金控除」という制度は以前から設けられており、数年前と比較して、適用下限金額が引下げられる改善は行われている。
今後日本の税制度としては、「免税の対象範囲」として認められるNPO法人の基準を下げる等の改善をする必要がある。また、「寄付金控除」に関しては、手続きを簡単にするなど、より寄付が増える様な改善に取り組んで欲しい。前述の様なインフラ環境が整う事により、国民がより多くの寄付を行う環境を構築することが出来るのではないか。
しかし、国の税制度は急には変わらない。NPOの活動としては、まず出来る事から始めるべきである。
アメリカの調査結果("Giving and Volunteering in the United States 2001")によると、アメリカ全世帯のうち89%が、平均して家計収入の3.1%にあたる年間1,620ドル(約135,000円)の寄付を行っているとの結果が出ている。
アメリカで寄付金額が増えた背景としては、上記で述べた様に「免税の対象範囲」が幅広いため、自分の関心のある分野に寄付が出来る事に加え、寄付を集めた団体やNPOから寄付者に対して、使い道を明確に伝え、どの様な成果を上げたかをしっかりと報告している。そのため、寄付者は、自分の寄付がどの様に社会の貢献へつながるのかを知ることができ、それが継続的な寄付を促すことにも大きく寄与している。
日本でも、以前から地震などの災害に対する義援金や、赤い羽根共同募金のように、広く寄付を集める活動が行われている。内閣府が2005年8月に行ったNPOに関する意識調査によれば、2005年1年間に寄付をした人は70.5%もいる。しかし、上記寄付金額と、寄付をした人の割合から、日本人1人当たりの年間の寄付金額を概算すると、約2,400円程度となる。アメリカに比べ、寄付金額が少額な事がわかる。
前述した70.5%の人々の寄付先の8割以上が共同募金、5割以上が日本赤十字社(複数回答)となっている。この理由は、どの団体に寄付したらいいのかわからないため、結局「赤十字に」となっている。寄付はしたいと思っているが、どこに寄付をすれば良いか分からないのである。また、寄付をした人の中で、過去5年間にNPO活動に参加した経験のある人は1割未満でしかない。その理由としては「きっかけや機会がない」が半数以上で、「NPOに関する情報がない」が約3割である。現在は、寄付者とNPOの間をつなぐ情報やコミュニケーションが不足していることが分かる。
そのため、まず、日本のNPOは、世間に対して、広く自分たちの活動を認知してもらう必要があるのではないか。例えば、イベントの開催、著名人を巻き込んでの活動等、現在は「社会貢献」への関心の高まりから、NPOの活動に賛同する人は多い事が見込まれる。イベント開催は投資である。これをチャンスとして、NPO団体を寄付先の選択肢の1つとして認知してもらうべきだ。
また、アメリカの事例からもわかる様に、自分たちの活動について、寄付者への報告を徹底してはどうだろうか。
大阪大学大学院国際公共政策研究科の調査によると、日本人のうち寄付をするNPOを選ぶ際に重視する点として、63.4%が「寄付金の使い道が明確である」事をあげている。NPOからの充分な情報提供(寄付の使い道や、成果について)があれば、1人当たりの寄付金額を今よりも多く集める事が可能になるという事である。
寄付とは社会の課題解決に参画するための手段のひとつである。NPOはその仲介人の役割を担うが、寄付者のNPOに対する信頼がなければ、自分のお金と意思をNPOに託すことはしない。NPO側が、寄付者の行為(好意)をしっかりと社会貢献へとつながっている事を明示する事により、NPOと寄付者の間の信頼関係が構築され、今よりも多い寄付金額を集めることが出来るのではないか。
今、世界では様々な社会問題が発生しており、それらの問題は誰もが真摯に受け止めなければならない。その中で、日本の若者の社会貢献に対する意識の高まりは、この上なく誇らしい。今後を背負う若者の社会貢献意識の高まりを支え、仕事として収入を得て働き続けられる仕組みを作るために、国にはより寄付をしやすい税制度の整備と、NPOには社会に対して、自分たちの活動の周知と、寄付者に対する報告といった自己改善に取り組んで欲しい。
今後、日本のNPOが、「30歳定年説」の打破と、社会問題への大きな貢献を果たして行く事を心より望む。
キヨラ