PMI Consulting Co.,ltd.
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2008.08.22

原料価格高騰という「外圧」によって変わるか、日本の古き流通システム

 原油や食品原材料高騰の影響で、消費者物価もじわりじわりと値を上げ始めた。価格転嫁による消費者離れを恐れ、値上げに踏み切らなかったメーカーサイドも企業努力だけではコスト上昇分を吸収しきれず、また世の中の値上げを許容する風潮に乗せられる格好で、価格引き上げや内容量の削減などの実質値上げに踏み切った。小売業もメーカーの仕切り値が上がるので、値上げをせざるを得ないが、元来チェーン展開している大規模小売業(以下GMS)は、商品の品揃えと他社以上の低価格を差別化要因として競合チェーンと激烈な競争を展開している。メーカー主導での値上げは差別化要因を薄れさせることもあり、歯がゆいところだろう。そしてなにより長期に亘って値上げを経験していない日本の消費者がどのような反応を示すか、消費者離れなども懸念される。このような環境だからこそ、小売業は価格によってライバルとの競争優位性を確保し、消費者を呼び込もうと着々と爪を研いでいる。その一つがプライベートブランド商品(以下PB商品)の展開であり、もう一つが正に流通改革といえる、江戸時代から続く商慣習に対してメスを入れようとしている。

 GMSのほとんどはPB商品のラインナップに力を入れてきた。PB商品はナショナルブランド商品(以下NB商品)に比べ利幅は変わらず売価は安くでき、さらに自社に価格決定権があることも魅力になっている。ここにきて、NB商品が値上げしたことで、PB商品に一層の割安感が生まれたことと、メーカーの偽装問題などで商品への不信感が醸成されている中、信頼できるGMSが製造責任を負っているということで、多くの消費者の支持を獲得することとなった。
PB商品の草分けといえば無印良品だろう。メーカー名などののれんを外し、できるだけコストを下げて商品のそのものを価値に応じた価格で買ってもらうという発想でスタートした。それを大々的に食料品から日用雑貨にまで展開したのは、価格破壊の雄、ダイエーである。「SAVING」を立ち上げ多くの加工食品や日用品を販売し始めた。メーカーからは猛反発を受けたが、小売業の発言力が増していた時期でもあり、メーカーの反発などは我関せずラインナップの拡充に入れ込んでいった。バブル期の多角経営が失敗してダイエーは失速してしまったが、行き過ぎたPB戦略も批判の対象となり、ラインナップは大幅に縮小された。しかしメーカー主導の価格戦略に迎合するのではなく、消費者に近い小売主導での価格破壊の切り札として、PB商品の企画開発販売を行った着眼点は新しかった。ダイエーの失敗はあったものの、他の大手小売業もPB商品に参入し、有名なところではイオングループの「TOP VALUE」、私鉄系スーパー連合による「Vマーク」などがあり、CVS系では7&iの「セブンプレミアム」など、値下げ販売をしないCVS業界までがPB商品を展開し始めた。
そういった背景から、当初のPB商品に対する「安かろう悪かろう」というようなイメージは希薄になり、PB商品の認知度が高まるにつれ、消費者のPB商品へのイメージも向上している。

 PB商品による価格破壊はなぜ可能なのか?。PB商品の企画は小売業が行い、製造はナショナルブランドメーカーが担っているのは有名な話だ。企画を小売業が行うことで、自チェーンでの売れ筋商品をPB商品化することができる。これによって死に筋商品による売れ残りリスクを最小に抑えることができる。また生産をメーカーに委託することで工場を構える必要がなく、なにより面倒な生産管理や原材料の調達などを行う必要がない。さらに自社のPB商品に関しては発注分をすべて買い取るため、メーカー側では在庫リスクが発生しないのでその分原価を抑えられる。そして広告宣伝費がゼロだということが大きい。すでに売れている商品を同じような名称でPB名を冠して販売するだけなので、商品の特性などを一から認知させる必要がない。つまり消費者はPB商品を見た時点で、NBの同じような商品を想起(内容、味、活用シーン、価格)できるので、CMなどの周知させるメディアにかける費用が必要ないのである。ちなみにイオンでは「TOP VALUE」そのもののCMを打っているが、個別のプロダクトのCMを打つことはない。このように企画~製造~マーケッティング過程でのコストを徹底して見直すことによって、コストがかからない仕組みが確立され、PB商品の低価格は成立している。

 そしてもう一つの施策は過去の商慣習を見直すことで、NB商品の価格を引き下げようというものである。一般的に現在の流通ルートは、メーカーと小売業の間には中間流通業、いわゆる卸売業が介在している。この製造~中間流通~小売という流れは、江戸時代から存在し、「そうは問屋が卸さない」という言葉もあるように、中間流通業が大きな力を持っていた時期があった。有名中間流通業といえば食品では国分、菱食、伊藤忠食品がメジャーである。単純計算ではあるが、先ほどの3社で年間約3.2兆の売上があり、その約10%程度(中間流通のあら利率はおおむね10%前後)が粗利となるので、それが食品価格に上乗せされて消費者に販売されることになる。ここに着眼することで大幅なコスト削減が実現できるのである。

 ただし中間流通業はその存在意義ともいえる重要な機能を持っており、その中での最も大きな要素は在庫備蓄と店舗別仕分け機能である。
中間流通業は複数のメーカーから商品を仕入れ、自社の倉庫に備蓄(100を超えるメーカーから合計1万アイテム以上を常時在庫)している。GMSの店舗は、売り場面積をより多く確保するために、極限までバックヤード在庫のエリアを縮小している。店舗の在庫は売り場の陳列棚やエンドに陳列されているものがすべてであり、売り場になければ欠品(品切れ)という状態だ。そのため売り場の発注点管理をPOSデータを駆使して精密に行い、発注点を下回った商品は即座に発注、翌日に中間流通業の倉庫から納品されるという仕組みを整えている。いわば店舗のバックヤードを中間流通業の倉庫が担っていることになる。
また中間流通業は、GMSの各店舗から発注をうけた様々な商品を、各店舗ごとに一つに梱包して発送する仕分け機能を持っている。店舗には陳列棚にしか保管場所がないので、棚に補充できる分しか発注しない。例えば歯ブラシ3本といった、1ケースに満たないバラでの発注も受け、小売業のニーズにきめ細かく対応している。もしその機能がなくなりメーカーから直送ということになると、バラ出荷などの対応ができないばかりか、それこそ各店舗に数百メーカーからのトラックが毎日到着することになり、店舗は入荷作業だけで一日が終わってしまうだろう。中間流通業が存在することで、食品、日用雑貨、生鮮品といった一日数回の入荷で済むことになる。

 しかし中間流通業を通さないで商品を調達することができれば、中間流通業に支払うコストが必要なくなり、それを販売価格に反映できればライバルに対するアドヴァンテージになる。そこでイオンは主要な商品(特売のような大量発注が可能であり、ケース単位で店舗への搬入が可能なナショナルブランド商品)に限って、中間流通業を通さず直接メーカーから買い付けるという施策を展開することを考えはじめた。これまでも部分的に行われてきたが、今回は商品全体の20%程度まで広げようとしている。メーカーサイドにしてみれば、GMSへ直売しようが中間流通を通そうが仕切り価格で売るだけなので、これまでと何も変わらない。イオンはPB商品を展開する自社の物流センターにメーカーから直接商品を一括で入庫し、ここで店舗別の仕分けを行って出荷するという方法をとる。仕分けといってもケース単位なのでそれほど複雑な作業は必要ない。またもともと特売商品は売り切ってしまうものなので、在庫がだぶつくようなリスクも少ない。イオンがこの仕組みを実現できれば、直接調達商品では小売価格を10%~20%は下げられるとの試算がある。
また7&iもザ・プライスというNB商品を対象とした安売り店舗を開設する。コスト削減手段として、メーカーとの直取引を施策の一つにしている。

 これまでもP&Gなどの外資メーカーが中間流通業の中抜きに取り組んできたが、日本型流通の壁に阻まれて実現できなかった。メーカーからすれば中間流通業のネットワークを使わないと、日本全国に配送することができないのである。それを今回はGMSが主導で進めようとしている。買う側である小売業の発言権が強い現在だからできることかもしれないが、価格高騰懸念がある今だからから価格こそが最大の武器であることに気付き、やっと重い腰を上げたというところだろうか。

 一般消費者にとって給与所得があがらないご時世である。安全安価なPB商品、無駄のない流通システムなど、消費者物価上昇の抑制つながる企業努力と企業競争には惜しみない拍手を送りたい。

マンデー

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