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2007.09.25

生保会社にサービスの進歩はあるか?

 国民生活センターの調べによると、ここ数年高齢者を巡る生命保険の契約トラブルが急増しているそうだ。その主要因は金融商品の複雑化に反して、商品説明が不十分で本人が理解しないまま契約していることにある。トラブルの中には悪質なケースもあり、高齢者向けとは思えないほどの長期契約になっている上、子や孫の同意なしに被保険者にされていたりすることもあった。国民生活センターは生命保険協会に対して、「高齢者当人への十分な商品説明責任と、勧誘時に家族の同席を求めるなどの業界自主ルールの設定」などの対策をとるように要望した。何故か保険商品に関わるトラブルは後を絶たない。
 そんな中で、医療保険では「貯蓄型医療保険」が増えている。従来の医療保険とどう違いメリットはどの程度のものかを、本当によく理解している生活者は少ないのではないか。ここにも、かならず保険会社の巧妙な販売戦術が潜んでいるはずだ。

 そもそも、医療保険とは病気やケガをした際にかかる入院費や手術代を給付金の対象としている保険である。給付対象が絞り込まれているだけに、毎月の掛け金は従来加入している生命保険と比べると格段に安い。日本では医療保険市場に外資保険企業が参入するや、「高齢者の加入」と「毎月の保険費用の安さ感」を訴えることで、同市場は急激に成長してきた。しかし、ここにきて成長が鈍化してきたため、次なるうち手を模索していた。
外資保険企業は、同市場に対する成長が止まったポイントを「保険料の掛け捨てに対する日本人の抵抗感」にあると捉えたのであろう、「貯蓄型医療保険」を投入することで従来型商品には手を出さなかった生活者層の取り込みに成功した。これらの生活者層にとって、将来への傷病と貯蓄の不安に対応していることは、非常に魅力的に感じたのだろう。しかし、本当に魅力ある商品なのだろうか?

 大手外資保険会社の代表的商品を見てみると、従来の医療保険との主な違いは、保険料を払い込み終えた後の仕組みにあるようだ。これまでの医療保険の入院給付金と手術給付金の受取りに加え、一定期間に入院や手術がなかった場合は「ボーナス①」をもらえる。更に、保険料払い込み終了時にも、支払総額から給付金と「ボーナス①」を差し引いた金額「ボーナス②」を受け取れるというから、掛け捨て型の医療保険に比べると、確かにお得感がある。しかし、いいことばかりではない。特に、消費者にとって最大の盲点になるのは、「後から戻ってくる保険料相当額に貯蓄性があるのか?」という点だ。
 例えば、30歳で保険料を1万8千円で加入したと仮定すると、受け取りは30年以上先だ。それだけの長期にわたる貯蓄分を自分で運用したらどうなるのか?仮に1%で運用したとすると、30年で約620万円、保険料総額よりも約88万円多い計算だ。この差はおよそ110日の入院に匹敵する。あるファイナンシャルプランナーによると、「保険料相当額が戻ってくるという意味には、利息はまったく付かないということだ」と指摘している。そう考えると、将来起こるだろう様々なライフイベントや非常時のことを考えると、保険に貯蓄性を求めるべきではないとも言える。むしろ、自分自身で「医療貯蓄」と称して運用する方が、保険と比べて解約リスクもなく、いつでも元本以上が保証されているのだ。私たち個人が、商品・サービスを深く理解しなくては、運用機会すら失いかねないのである。ならば、従来の医療保険に加入し、貯蓄は分けておく方が生活を営む上でのメリットは大きい。
 企業は商品・サービスに対する疑問やクレームを通じて、自社の商品・サービスの品質を上げてきた。
 しかし、どうやら保険の新商品にはあてはまらない事が多いのではないか。彼らは狙ったターゲットの心にいち早く火をつけ、競合が出てくる前にあっという間に成果を刈り取る。私だけだろうか、保険会社の営業マネジャーのこんな声が聞こえてくる。「法に触れない範囲で一通りの説明はしておけ、加入者が気づくまでには時間がある、それまでに目標を必達せよ!」と。

 視点は全く変わるが、接客サービス業では一歩進んだサービスの試みが始まっているようだ。全日空は、機内危機管理を強化する。客室乗務員を指揮・監督するチーフ・パーサーを対象に、不測の事態の発生時に対応できる判断力と行動力を高める教育を導入した。この訓練の真の狙いは、不測の事態においても機内の安全性や快適性を実現することにある。その背景には2010年の羽田空港拡張に向けたサービス競争激化がある。機内における病人の発生、発着時の遅れにおいて機内で起こりうる顧客対応など、訓練の題材は様々だ。サービス業において、今までは平常時を前提として、いかにしてお客さまに満足して頂けるかが課題であった。同社は、接客応対、機内食、マイレージサービス、プレミアムシート、他、あらゆるレベルで顧客満足を追求し、常に日本航空に先んじてきたことで、多くの利用者から支持されてきた。
 但し、これら顧客満足の追求は、すべてにおいて平常時を前提にしている。ところが、今回の機内危機管理強化策は、まさに非常時における顧客満足の追求だ。この取組はサービスレベルの進歩と言っていい。
 非常時があることは誰も望まない、しかし事の大小を問わずそれは必ず起きる。その時にこそ非常時訓練の成果はサービス業の中でも特筆すべき品質として表れ、そこに居合わせた乗客からは「どんな時においても、お客さまの安全と快適を実現する」という強い企業姿勢を実感する。おそらくは、そこに居合わせた乗客から決定的な企業ロイヤルティを獲得するはずだ。是非とも世界を代表するサービス業へと成長して欲しいものだ。
 同じサービス業であっても、一方は生活者心理を巧みに操り短期的に顧客を吸収しようとし、他方では非常事態の顧客心理を研究して長期的な顧客関係を構築しようとする。両者のビジネスモデルの違いを理解すれば、決して保険会社が悪いとは言えないだろう。しかし、保険会社は顧客の目先を変えた一見新しく見える金融商品を開発することにばかり執着するのではなく、自分たちが顧客に提供している真の価値は何なのか?その根本に立ち返ることをしてもらいたい。もっとも、今の彼らにはそんな時間があれば、次なる新商品開発か新たな加入者を増やす方が先決だろう。
 保険商品のサービスレベルを上げるためには、私たち生活者の一人ひとりが自分自身の力で商品・サービスの価値を比較検討できる知恵を持つか、あるいは良いアドバイザーを活用できる環境を整え賢い生活者になるしかあるまい。
 トラブルからではなく、賢い生活者から学ぼうとする時こそ、保険会社のサービスは進歩するのだ。

アーリーバード

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