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疲弊した資本主義を救う新しい「機能」の行方

 21世紀に入ってから早いもので20年が経過しましたが、20世紀の終わりごろから、民主主義の衰退がはじまったと言われています。確かにコロナへの対応を見ると、統制が利きやすい専制的国家のほうが、即座に大胆な施策を講じることで、コロナの封じ込めに成功しています。また、中国の目覚ましい経済発展を目の当たりにすると、国家による統制のもとでの管理された競争のほうが、経済成長にもつながりやすい、というような解釈もできそうです。

 スウェーデンの調査機関V-Demによると、2019年に民主主義国家や地域は、世界で87を数えたのに対し、非民主主義国家や地域は92に上りました。民主国家の数が非民主国家を下回るのは18年ぶりのことです。また、2020年に民主国家で暮らす人の数は世界の46%と、旧ソビエト連邦が崩壊した1991年以来の低い水準となりました。

 

 20世紀の社会体制は、民主主義こそが目指すべき理想的到達点という結論が出され、20世紀末には社会主義国家が続々と民主化したことは記憶に新しいと思います。市民の熱望と行動によって独裁者を倒し、民主化を手に入れることで、拘束から逃れ自由を獲得し、自由競争による経済的繁栄を謳歌し、豊かさを享受できるはずでした。

 しかし、民主化して市民が味わったのは、大きな失望と無力感だけで、再び非民主主義への道を歩んでいる国もあります。その一例としてハンガリーがあります。ハンガリーは1989年の東西冷戦終結後に、共産主義から民主主義へと転換しましたが、2018年には非民主主義に逆戻りしました。ハンガリーがEUに加盟したのは2004年ですが、同国の賃金水準は現在でもEU平均の3分の1にすぎず、自由は獲得できても、「民主化すれば豊かになれる」という人々の夢は幻想に終わっています。

 このような、市民のやり場のない不満や不安から、主に軍部を中心とした強権体制に移行する国家が増えてきているのです。強権体制に移行した国家は、民主主義の盟主である米国への敵視を旗印にして政権を樹立することが多く、反米国家が多いのが特徴になっています。

 

 民主主義による豊かさは、自由な競争環境によってもたらされるものですが、この競争には「人々の自由競争」と「資本の自由競争」があります。この2つの仕組み(民主化による行動と資本の自由競争)をまとめて資本主義や自由市場と呼んでいます。

 民主化されて、公正なルールの下で、自由に行動できれば、個人の資本の動きも自由になり、市場が活性化されていきます。活性化された市場での資本や資金は、多くのリターンを生む産業や企業に積極的に流れ込み、企業はより多くの利益を求めて様々な投資を行うことになります。企業が投資することで雇用の受け皿ができあがり、多くの人材(頭脳)が流入して能力を開花させ、他社との苛烈な競争によってさらに磨かれていきます。このプロセスによって大きな経済成長が実現されることになります。しかし、管理された経済体制では、このような循環が起こらず、または起こっても循環の速度が遅く、資本主義国家の速度についていけず、その勝敗は20世紀に決着がついています。

 

 では、新しく民主主義クラブに加盟して自由競争を獲得できた国家が、夢見た成長が実現できないのはなぜなのでしょうか?

 20世紀型の資本主義は、労働集約型の製造業を中心に発展したため、多くの労働者が必要でした。そのために経済成長の原動力は中間層の労働者であり、中間層は政治的には民主主義の担い手として各国の社会を安定させる役割を果たしてきました。しかし20世紀末から発展した金融とIT産業は知識集約型であり、それまでの経済成長の原動力である中間層を育てる機能を持っていません。実際に米国経済をけん引しているIT産業は、過去20年間で雇用を20%近く減らしたと言われています。

 このように、資本主義はその時流や先端技術に合わせて、その表情を変えていきますが、資本主義が発明された当初から変わっていないのは、社会課題を解決する機能を持たないことにあります。

 

 資本主義が、投資に対するリターンを最大化させるゲームだとすると、リターンの前では、社会課題の発生抑止やその解決の優先順位は低く、置き去りにされてしまいます。20世紀末に加速し始めた「行き過ぎた資本主義」は、環境破壊や経済格差(富を持っている者により多くの富が集中する仕組み)という社会課題を作り出しました。特に経済格差は、国家間の格差が搾取や貧困の温床になり、この状態(特に南北問題)を放置(軽視)したために、経済大国への反発が徐々に強まり、やがてイスラム国などのアメリカを敵国とする反米国家やテロ国家などが誕生することにつながります。民主化した国家のほとんどが豊かな経済成長を実現していれば、反感を持つこともなかったでしょうが、実際には専制国家を増やしているのです。特に反米を旗印に誕生した政権は、例外なく独裁的な指導者をリーダーとする専制国家になります。

 

 民主主義は、人類が求める国家ガバナンスの仕組みとして、現在のところ最も適切な仕組みだとするならば、民主主義の伝搬をあきらめてはならず、そのためには「行き過ぎた資本主義」を見直し、社会課題を解決できる新しい資本主義に変えていく必要があります。

その一つの取り組みがESG投資だと言えます。ESG投資は、いわば「行き過ぎた資本主義」を戒め、社会課題を解決する機能を持たせようというもので、経済的なリターンを強く求めるのではなく、社会的なリターン(社会課題の解決)を求め、それを「持続可能な経済的なリターン」につなげていくことを狙ったものです。

 

 わかりやすいESG指標として、「MSCI米国ESGリーダーズ指数」があります。これはESG評価の高い企業を多く組み入れたインデックスで、社会課題(今は温暖化対策中心)に積極的に取り組んでいる企業達のインデックスになりますが、2020年から2022年1月までは、順調に運用成績を伸ばしていました(ダウ平均やエネルギー指数よりも高い成績を誇っていました)。これは、市場(主にウォール街)が、ESGに積極的に貢献しようとしている企業を、そうでない企業以上に評価し、実際に投資が集中することを意味しており、この成績の向上が持続すれば、世界中の名だたる企業がこの流れに追随することになり(追随しないと投資されなくなる)ます。これが、資本主義に社会課題の解決機能が組み込まれた状態であり、市場原理の下で機能するもので、国家や地域の都合は作用しにくくなります。ESGへの取り組みに消極的な国家や地域へは、企業進出や投資が減っていくことになります。まさに国家戦略や政治をも動かす冷静な意思を持った資本のパワーだと言えます。

 

 しかし、この機能に冷水を浴びせかけたのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアへの経済制裁と制裁への報復により、各国のエネルギー問題が深刻になり、世界はESGよりもエネルギー安全保障の優先度を上げようという機運が高まってきています。市場は敏感に反応し、「ESG指数」は昨対比で15%以上もさげてしまいました。ここでESGへの投資が冷めて市場から撤退することになると、資本主義には社会課題の解決はできないということが証明されることになり、さらに失望は広がるでしょう。現に石油や石炭開発への投資が少しずつ増え始めています。皮肉にも専制国家(ロシア)により、民主主義+資本主義の本心が試されることになりました。

 これは民主主義の危機であり、この危機を人類の叡智で乗り切り、当初の計画以上に脱炭素が進めば、資本主義の社会課題の解決機能は、自由陣営の市民のマインド改革を含めて、新しい資本主義を作り上げたといえるでしょう。この機能が備わって実効性を伴うようになれば、民主主義+新型資本主義として復権することになり、専制体制から鞍替えする国家も増えてくることでしょう

 

 地球環境を破壊してまで今の便利さを求めるべきではない。少しの不便は許容し、将来の地球の姿、人類の繁栄の姿を思い描き、そのような取り組みに積極的な企業に優先して投資しようという営みはできあがるでしょうか?ロシアのプーチンに試されているのは、国家だけでなく、企業や一般市民も同様なのです。

 

マンデー

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