News / Topics

最新情報

音楽を仕事の味方につける

 昨今、コロナウイルスの影響により、私たちの生活スタイルは以前と異なるものになった。それは働き方にまでもおよび、私自身、毎日事務所まで通勤していたが、感染拡大によって、テレワークをする機会が増えることとなった。私は自宅で仕事をするとき、音楽を仕事への集中力を高めるための材料としていた。ただ一方で、音楽に聞き入ることで、仕事に集中することができず、効率的ではないと感じることも度々あった。テレワークにシフトして自宅での仕事の集中の仕方を模索している人も多いのではないだろうか。私の場合はそれが音楽だったわけだが、なぜ人は音楽を聴くことで集中への影響があるのだろうか。

 一般的に音楽は気持ちを高揚させる効果や、リラックス効果があるといわれている。その為、仕事をしながら音楽を聞く場合、クリエイティブな発想をするシーンや、連続した作業をこなしていくシーンなど、シーンによって音楽を聞き分けることが作業の効率化に効果があるのではないか。科学的な根拠も交えながら、音楽が人に与える影響を考察し、上記仮説について考えていく。

 

1, コロナによる働き方の変化について

 まず、働き方がコロナウイルス感染拡大によって、どのように変わったのか改めて確認しておきたい。内閣府のデータから、2019年12月時点では全国のテレワーク実施率は10.3%であったものの、2021年12月時点で32.2%とコロナウイルス感染拡大を受け、各企業テレワークの導入が広がったのは明らかだ。

 とはいえ、働き方の環境が変わっても、仕事をするうえで成果を出し続けることが必要であり、成果を出すためには、集中力高く仕事をすることが良いことは、概ね異論はないだろう。では、人が仕事に集中するとはどのような状態なのか、脳の仕組みから見ていく。

 

2, 脳の仕組みから見る集中の仕方について

 集中は、置かれている心身の状態と脳の意識状態によって、「緊張状態の集中」「リラックス状態の集中」「意識的な集中」「無意識的な集中」の4つに大きく分けられる。

 一つ目の「緊張状態の集中」の場合、「β波」という脳波が現れる。β波は人が興奮した状態で現れる脳波であり、高い集中力を発揮できる一方で、活発な頭脳活動によりエネルギー消費が早いため、集中が続かないという特徴がある。

 二つ目の「リラックス状態の集中」の場合、「α波」という脳波が現れる。α波が発生していると、脳内ではβ-エンドルフィンという「脳内麻薬」とも呼ばれる神経伝達物質が分泌される。この物質には、ストレスを減少させる、脳を活性化させる、幸福感を感じさせるなどの働きがあるといわれている。また、脳のエネルギー消費が穏やかになるため、脳の活動を長時間維持することができる。

 三つ目の「意識的な集中」場合、「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)」と呼ばれる神経回路ネットワークが活性化されている状態である。CENは、前頭前野をメインとした脳のネットワークであり、人が意図したところに注意を向けたり、何かを考えようと問いを立ててみたりと、対象に人間の注意を向かわせる場合に活発になる。但し、このCENは過剰なストレス状態に置かれると停止する。緊張状態に伴うストレスホルモンの過剰分泌によって、CENのネットワークがある前頭前野の動きがストップしてしまうことが原因であるため、緊張状態では意識的な集中をすることが困難になる。

 四つ目の「無意識的な集中」の場合、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれる神経回路ネットワークが活性化されている状態である。DMNは、人間が経験してきた“記憶ドリブン”によって行動や意思決定を導く脳のネットワークである。CENとDMNの違いを例えると、通勤や通学で通いなれた道を歩いている時に、「この道をまっすぐ進もう」といった意思決定はほとんどしていないだろう。最初はその道を通る時に「この道をまっすぐ進もう」と意識的に(CENを使って)行動するが、同じ行動を繰り返すと、記憶として定着していく。それが記憶ドリブンとなり、通いなれた道は意思決定をしなくても行動に導くことができる。後者がDMNの働きによるものである。脳のパフォーマンスを高めるという観点でいうと、CENからDMNに移行させることが有効である。

以上、集中の仕方についてまとめると以下の通りになる。

A. 「ストレス状態の集中」の場合…β波によって高い集中を得られるが、持続性はない

B. 「リラックス状態の集中」の場合…α波により高い集中力を持続させることができる

C. 「意識的な集中」の場合…セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)が活性化している状態であり、ストレスがかかると活性化しにくい

D. 「無意識的な集中」場合…デフォルトモード・ネットワーク(DMN)が活性化している状態で、記憶や経験に準じてオートマチックに情報処理や指示が出されている

 

 振り返ると、仕事において長時間の集中を要する場合には、BかつDの状態が適しており、AかつCの状態は脳に負荷が多くかかっている状態であるため適さない。短期集中によって成果を生み出すためにはAかつCの状態も有効となる。

 脳の仕組みから見る集中の仕方については理解できたが、ここで改めて冒頭の問いに戻る。音楽にはどのような効能があり、集中したいシーンに応じてどのように取捨選択すればよいのだろうか。

 

3, 音楽の効能について

 音楽を聞くと人の脳からα波が現れ、この効能は音楽療法としても広く取り入れられている。より大きくα波が現れやすいと言われている音楽は、クラシック音楽、ヒーリング音楽が挙げられる。クラシック音楽、ヒーリング音楽には豊かな周波数と複雑でストーリー性溢れる楽曲が多く、脳が無駄な情報を処理しないよう、歌詞がない音楽であることが効果を高めていると言われている。

 また、人間の脳は左脳と右脳に分かれており、左脳が言語活動や論理的思考の活動を、右脳が身体感覚や芸術的活動などを担っている。我々の日常生活では左脳を使う場面の方が多い上に、左脳は右脳よりも容量が小さいため、左脳を適度に休める必要がある。そこで、クラシック音楽、ヒーリング音楽を聴くことは芸術的活動を担う右脳を刺激するため、結果として左脳を適度に休めることができるともいわれている。

 音楽の効能に関してα波の存在を挙げたが、別の観点では、ドーパミンというやる気に作用する神経伝達物質の存在が挙げられる。神経伝達物質は、人間の脳内で情報の運搬役として働く化学物質であり、中でもドーパミンは運動や学習、記憶、思考、理性、意識など、心の機能に関与しているといわれている。2009年、カナダ・マギル大学の研究チームは、米科学誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』に「音楽はドーパミンを分泌させる効果がある」という論文を発表している。その中で、好きな音楽を聴いてワクワクしているときに身体活動が活発化し、ドーパミンを分泌することが判明した。

 

 以上、音楽の効能をまとめると以下の通りになる。

①    α波の発生を促す

②    右脳を活発化させ、左脳を休める

③    ドーパミンを分泌させる
 

①②は特にクラシック音楽やヒーリング音楽で効果が高く、③は好きな音楽で効果が高い。

 

4,集中するシーンによる音楽の選択について

 2,3で述べてきた内容を整理しながら冒頭の問い「音楽を聴き分けることで効率的に仕事ができるか」についてさらに深堀していこう。目標や期限などがひっ迫し、ストレスのかかっている状況では、短時間で集中度を上げて仕事を行うことが必要になる。その場合、脳はCENが活性化しており、β波やドーパミンを多く発生させることになる。したがって、自分の好きな音楽で気分を高めていくことが重要になる。一般的には、このような状態では歌詞のないアップテンポの曲が効果的であるとも言われている。(例えば、EDMやロック系の音楽など)また、緊張状態からリラックス状態に変化させたいとき、長時間集中力を要する状況やクリエイティブな発想が求められるような状況では、脳の状態としてDMNが活性化させα波が多く発生させることが望ましい。したがってクラシックやヒーリング音楽を聞き流すことが効果的であると言われている。

 

5,企業の取組事例について

 ここで、実際に企業がオフィス等で音楽を取り入れた事例を紹介する。対象の人材派遣会社ではヒーリング音楽を導入し、社員にアンケートをとったところ、周りの音が気にならなくなったととても好評であった。休憩時、午後の始業時、終業時と、タイミングごとに違った音楽を流すことで、自然と時間を意識するようになり、作業効率が上がったとも挙げられている。結果的に、音楽の取捨選択をすることで音楽の効能だけではなく、メリハリをつけた仕事をすることに繋がり働きやすい環境になった。音楽の取捨選択をすることが意味のある取組であることがわかる。

 また、他事例として、倉庫のピッキングなどの作業場では、仕事それ自体が無機質になるため、ポップ系の音楽を導入することで、気分を上げながら作業ができるようになった。その他に、従業員がリクエストした音楽を導入することで、従業員が嬉しい気持ちになり、業務に前向きな心構えにすることができ仕事もはかどった。これは好きな音楽でドーパミンを分泌させている例ともいえる。

 

6,最後に

 私自身も音楽を聞きながら仕事をすることが多いが、振り返ると好きな音楽を聞くことで、気分を上げ集中ができると感じていたこと(脳の中ではドーパミンが出ることで集中できていること)がわかった。ただ、気分を上げることができても、仕事の種類によって好きな音楽を聞くことが、逆効果であること(β波は短期的な集中にしか向かないこと)が大きな気づきとなった。皆様も仕事を行う際、仕事のシーンと音楽の種類を合わせることで、今までより集中した働き方ができるようになるのではないだろうか。脳に与える作用なども少し意識しながらぜひ自身にあった音楽を選んでもらえれば嬉しく思う。

 

 

トーイック

 

書籍:「心を動かす音の心理学 ~行動を支配する音楽の力~」著者,齋藤 寛

Contact

お問い合わせ

PMIコンサルティングでは、企業の人と組織を含めた様々な経営課題全般、求人に関してのご相談やお問合わせに対応させていただきます。下記のフォームから、またはお電話にてご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。