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分子構造がレシピになる時代

 近年、分子ガストロノミーがフードテックの一種として、フードロスの削減やたんぱく質源不足への対策に利用できるとして注目を集め始め、国内外で分子ガストロノミーを応用した事業が数多く誕生している。

 

 分子ガストロノミーとは、食材を物理的・科学的に研究し、それを調理に応用する学問分野のことをさす。分子美食学とも訳され、1992年にイタリアで誕生したといわれている。ハンガリーの物理学者、ニコラス・クルティら数名の科学者と料理人が集まり、経験や伝統に習って継承されていた料理を、科学的に分析するために研究会を創設したことがきっかけだ。

 例として、長年信じ込まれ多くの調理本で紹介されてきた「ステーキの表面を強火で焼くと、肉汁が中に閉じ込められておいしくなる」という理論が迷信であるということが判明。それどころか、初めから高温で焼いてしまうと、肉に含まれるたんぱく質が凝固し、表面の水分も失われ肉の触感が固くなってしまうという研究結果が得られている。逆に弱火で加熱することで、たんぱく質が変性しうまみ成分が作り出され、おいしく焼きあがるということがわかり、多くのステーキ屋で低温で調理し最後にバーナーなどを使って強火で香りづけをするという調理法が採用されている。以来、料理を科学的に分析することで、調理方法や食材の保存方法の改善、新たな料理の開発などが行われ料理の分野において大きく貢献してきた。

 

 近年は料理分野だけでなく食品事業に関するさまざまな分野で分子ガストロノミーの研究が応用されはじめている。昨今のフードテック関連技術の高まりを受け今後更に科学的なアプローチが深まり食糧危機や環境問題などにも深くアプローチできるようになるだろう。

 

 例えば、今年2月に米スタートアップ企業Cana Technologyは世界初の「分子飲料プリンター」という製品を発表した。どのような製品かというと、ジュース、コーヒー、カクテル、ワインなど、どんなドリンクでも作れる家庭用のドリンクバーみたいなものをイメージしてもらうとよいかもしれない。例えばワインの場合、その約87%は水で、約12%がアルコール、ワインの味やニオイを決める成分は実は1%以下しかない。この部分を徹底的に分析し、何がその飲料の味を作っているのかを解明。それらの成分を濃縮して、100種類以上の飲み物を作れるカートリッジに装填した。この製品のポイントは飲料生産における環境負荷の削減にある。世界の飲料産業が消費するプラスチックやガラス容器の削減、水の浪費、輸送コスト、工場から排出されるCО2などを大幅に削減することを目指したものだ。

 このような「味覚・嗅覚」をデータ化するテクノロジーの開発が進み、世界のAI研究が味覚に向かってきている。

 他にも米スタートアップ企業のAromyxは食品の味と匂いの構成要素をAIで分析する技術を開発している企業だ。味をデジタル的に計測できる疑似的な舌を開発し、美味しさを詳細なデータにしてレポートしてくれる検査キットを開発しており、様々なグローバル企業から続々とオファーが届いている。

 

 今や食品や飲料がどのような味覚構成をしているのかが分析できてしまい、それを再現することが可能になりつつある。これまで職人技であったウイスキーのブレンドなどは、何十種類も匂いと味をかぎ分けて調合していた。しかしそれが詳細なデジタルデータとして可視化することができる。こういったテクノロジーを応用していくと将来的には巨大な味のデータベースが構築されることになるだろう。様々な食品や飲料のデータベースが蓄積され、いずれはEコマース等で味のポートフォリオデータをベースに、個々人の味覚の趣向にあった味の商品をリコメンドできるようになるかもしれない。

 

 また、代替性食品分野においても大きな影響を与えるだろう。11年に70億人を突破した世界人口は50年に97億人、80年代には104億人でピークに達すると予想されている。その一方食料需要は50年までに1.7倍となる試算もある。こうしたなか食糧危機やタンパク源の枯渇、食肉の生産過程におけるCo2排出量の問題、土地・水資源の枯渇などに対し植物由来や細胞培養による代替食品の開発が盛んだ。現在は一部の食肉や乳製品の開発に留まるが、様々な食材をリバースエンジニアリングすることで分子構造や味を解析し、植物や代替分子を使ってリアルな味を再現し食にまつわる問題解決を更に進めてくれるだろう。

 

エウロパ

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