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ブルシットジョブは消えゆくのか?

 VUCA時代と呼ばれる現在、どの企業も既存のビジネスモデルのままでは安定成長が約束されない状況にある。そのような中では、既存のビジネスは守りつつ、新しいビジネスモデルを模索し、そこにリソースを割いていくことが求められるケースも多い。そのような場合、リソースを増やす選択肢以外に必ず議論の俎上に上がるのが既存ビジネスの生産性を高めリソースにおける余剰を生み出していくことだ。

 タイトルにも採用しているが、そのような生産性改善を省みる際は、ブルシットジョブをなくすというのが一つ大事な視点になる。ブルシットジョブというのは、文化人類学者のデヴィッド・グレーバー氏が提唱した概念で邦題「ブルシットジョブ クソどうでもいい仕事の理論」という本で日本でも発刊され話題を呼んでいる。ブルシットジョブとはどういうものか、グレーバー氏の定義を引用する。

 

ブルシットジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

 

 すなわち、仕事している本人がその仕事を無意味で不必要だと思いつつも、有意味で必要であるかのようにふるまっている仕事のことである。例えば、だれも見ていない報告書(チェックされない日報など)や何も決まらないがとりあえず実施している会議など、皆さんも胸に手を当てると少なからず浮かぶものがあるのではないだろうか。参考までに、グレーバー氏が挙げているブルシットジョブの5つの種類を以下に引用する。

 

1. 取り巻き(flunkies)
いわゆる媚びへつらいのための仕事。誰かを「大物」と思わせるためだけに存在している仕事。例えば、誰も来ないオフィスの受付係など

2. 脅し屋(goons)
他者を脅迫するような要素を持っている仕事。例えば、広告や広報など

3. 尻ぬぐい(duct tapers)
組織の中に欠陥(無能な人間)が存在しているために、それを補償するためだけに存在する仕事。

4. 書類穴埋め人(box tickers)
ある組織が実際にはやっていないことをやっていると主張できるようにすることが主要な存在理由であるような仕事。主として書類にチェックするだけの作業など

5. タスクマスター(taskmasters)
いてもいなくても同じことになる管理者。他者がなすべき仕事をでっちあげるだけの仕事。

 

 これらの仕事は、会社が生み出す価値には何ら影響を与えないばかりか、その存在ゆえに生産性を下げる原因となっている。まずはこれを撲滅していくことが業務整理による生産性向上の第一歩としては重要になる。

 では、どのようにしてブルシットジョブは生み出され、かつ生み出されたものがなくなっていかないのか、少し考察してみたい。まずブルシットジョブの発生は大きく分けて二つのパターンがあると考えられる。一つはそのジョブが生まれた当時は重要で意味のある仕事だったが、経年でブルシット化したパターン、もう一つはもともとブルシットだったものが懐疑されることなく定着してしまったパターンである。どちらもその仕事をこなす組織の中でブルシットジョブを遂行することそのものが目的化してしまい、その必要性などのWhyが考えられずに改善(もしくは廃止)されていかないことに多くの原因があるのではないだろうか。さらに言えば、なぜブルシットジョブがなくならないのかについては、その仕事を行っている個人や組織の中で3つの壁が存在するのだろう。それは、“認知の壁(気づかない)”“発信の壁(言えない)”“実行の壁(手放せない)”である。これらをクリアするには、実際にブルシットジョブを担う本人やその上司の考える力や意識改革(おかしいと気づく、おかしいといえる、おかしいといわれたものを受け入れるなど)が重要になる。それらを実現するには、日ごろの組織内の関係の質やコミュニケーションカルチャー(相互にフラットに対話し、フィードバックしあう文化)が醸成されているかが重要になることは想像に難くない。

 

 さて、時代が変化していく中で、ブルシットジョブをなくしていくためには何をしていかなければならないのか。今の時代に求められる要素という視点からも深堀したい。

 今は新たなる分散時代にあるといわれている。歴史をひも解くと、日本の高度経済成長期の時代は、変化が少なく安定して成長していける時代であった。その時代には社内の様々な機能と意思決定は現場各所に分散し現場最適なボトムアップが生産性を高める経営のあり方であった。その後、バブルが崩壊し、劇的な改革が必要とされる中で分散されていた意思決定は統合され、トップダウンで素早く意思決定がなされる経営のあり方にシフトするが、現在はそれがまた分散する形になってきている。なぜならば、コロナの影響もあり、個人の働き方や働く場所も多様化している一方、VUCA時代においては変化に素早く適応できる組織能力が求められ、現場ごとに柔軟に対応できるよう組織の意思決定も分散化したフラットな経営が進んでいるからである。

 そのような時代においては、共通の価値観や行動原理、目指す先が明確にビジョンやミッションなどで示され共有浸透されていることと、現場で相互に知を生み出し、柔軟に変化していくためのコミュニケーションカルチャーが重要になる。

 特に後者のコミュニケーションカルチャーについては、ブルシットジョブをなくす上でも重要であり、これからの時代において非常に重要視されてくることがわかる。

 

 分散時代において、現場判断で組織の生み出す価値を最大化していくことが求められる中では、減っていきやすいブルシットジョブ(例えば、現場に権限移譲が分散することで今まで必要だった本社向けの報告資料作成などといった本社に阿る“取り巻き”的な仕事など)もあれば増えていきやすいブルシットジョブ(例えば、社員が遠隔でのリモートワークが浸透することによる定例的な作業進捗確認のミーティングといった管理を目的とした“タスクマスター”的な仕事など)もでてくるだろう。減るものもあれば増えるものもある中で、全体のブルシットジョブを減らし(できればなくし)、新たなる変化に対応する力の獲得にリソースを最適配置していくことは今後より一層求められる。そのためには、相互に対話しフィードバックしあう中で、目的に照らし合わせて業務のWhyを考え、価値のないブルシットジョブはなくしていける組織風土を醸成していくことが求められるのではないだろうか。経年でのブルシット化が起きている業務がないか、なんとなくやっている業務はないか、(特にアウトプットや会議体など)改めて組織の中でまずはフラットに対話してみることを皆さんにはお勧めしたい。

 

 

参考:デヴィッド・グレーバー著 「ブルシットジョブ クソどうでもいい仕事の理論」

 

 

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